新城彰の本棚

ミステリー好きの自分勝手なコメント

やはり世界中「カネ余り」

 緊急事態宣言の広がりもあって、「#二度目の一律現金給付を求めます」がトレンド入りしたらしい。これに麻生副総理・財務大臣は「銀行預金が増えるだけ、経済効果は期待できない」と消極的である。さらにこのところ銀行の預金総額が急増しているとの報道もあり、やはり日本中「カネ余り」だと思われる。

 

 「カネ余り」は日本だけでなく世界中の傾向だが、それは「COVID-19」の影響で各国政府が財政支出を増やしているからだと思っていた。ところが本書(2019年発表)を読んで、それが「COVID-19」以前からだと知った。本書の著者中條誠一氏は中央大学名誉教授、商社マンから経済学者になり、国際金融・貿易の世界での論客である。

 

 通貨で世界経済を計るというのが本書の主旨、冒頭「国際通貨は貿易のためのものだが、2017年時点で世界貿易額は22兆ドルほどなのに、国際金融市場は53兆ドルを超えている。必要な額の倍以上が流通している」とある。

 

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 その主な原因は国際基軸通貨のドルが、必要以上に「刷られた」からだとある。米国は過剰消費性向の国で、貿易赤字を埋めるためにはドルを増刷する必要がある。大抵の国なら直に財政破綻するのだが、通貨発行利益があるのでドル増刷のコストが低い。その結果、国際経済全体がカジノ化してしまった。つまり過剰な資金が株式や不動産、果ては仮想通貨にまで流れ込んで、それらを必要以上に値上がりさせたというのが筆者の主張。

 

 ドルに対抗しようとしたユーロは、生産性の高いドイツらと低いギリシアらを同一通貨でくくったゆえの「ユーロ危機」に見舞われて鳴かず飛ばずGDP2位の経済力を背景にした「人民元の国際化」も、2019年時点でも貿易決済に使われるのはごくわずか(円より少ないとある)という現状。そこに仮想(暗号)通貨がなだれ込んできて、混沌としているというのが筆者の現状認識だ。

 

 落ち目かもしれないが基軸通貨はドルなので、米国市民が過剰消費をあきらめ倹約して貿易赤字を減らし、対外債務を償還するのが正しい経済学。しかしそんな政策を米国市民が受け入れるはずはなく、結局「America First」の鎖国もどきになって、上記のひずみは一層増したとのこと。

 

 仮想通貨の事はまだ不透明なのですが、それ以前の国際金融の話はすごく分かりやすかったです。やはり「カネ余り」は確かなのですね。「COVID-19」以前から。