「企業参謀」の大前研一より、勉強のためにたくさん読んだのが堺屋太一の著作。小説もそうだが、歴史ものの論説は独特な語り口があって好きだった。その日本歴史観が前編後編2冊で読めるのが本書。多くの歴史小説や論説がここにダイジェストされている。
日本史に登場する12人について、この人が日本人の性向の何を決めたのかが解説されている。架空の人物もいれば、外国人もいる。順番に見ていくと、
◆聖徳太子
日本人の宗教観を定めた人。蘇我家天皇家の連立政権を切り回す過程で、神・仏・儒の三教を糾合するという荒業をやってのけた。
◆光源氏
実態はあちこちの女性を渡り歩くだけの人だが、この人物像が「上品な人」はこうあるべきというイメージを作った。
◆源頼朝
「幕府」というものを始めて作った人。京に殿上人はあれど、政権は鎌倉にあり実験は武士にあるという形式を発明し確立してしまった。
◆織田信長
「兵農分離」という軍事革命と「楽市楽座」という経済革命をやってのけた。とにかく因習や古いしきたりを叩き壊すのが好きだった。
◆石田三成
「大いなる企て」にあるように、中間管理職がTOPを動かして大事をなす「官僚主導」体制を最初に作ったひと。実行能力は低かった。
◆徳川家康
とにかく忍の人。家来にも領民にも耐え忍ぶことを求め、「お上意識」を植え付けた。戦国時代の上昇志向に終止符を打った人。
◆石田梅岩
成長のないゼロサム社会で「石門心学」をとなえ、質素倹約にうちこむことこそ正しい庶民の道だと説いた。
ドイツ帝国に学び、近代日本の官僚制度を作った人。近代化には必要だったことだが、結果として「豊かでも幸せでない国」を作った。
◆渋沢栄一
「財界」を作り、産業界に日本的協調主義を植え付けた。個人主義の経営者は排斥され、産業界は「雇われ経営者」が闊歩するようになる。
戦後日本に理想国家を作ろうとし、平和主義と安全第一の思想を持ち込んだ。その結果、地方のコミュニティや古来の家族制度を破壊する。
◆池田隼人
「所得倍増」をスローガンに、経済大国の基礎を作った。GDP信仰や人間の規格化、都市への人口集中を進めることになる。
日本式経営として、終身雇用・職縁社会を作り上げ、企業に隷属して出世欲を満たそうとする「会社人間」を多数輩出した。
アイロニカルではあるのですが、いかにも「堺屋視点」の人物評だと思いました。