新城彰の本棚

ミステリー好きの自分勝手なコメント

ウクライナから見たロシア

 昨日・一昨日と、トランプ&プーチンの力の源泉や関係性について紹介してきた。本書はそのプーチンの「正体」を暴きたいと、ウクライナ人の研究者グレンコ・アンドリー氏が日本語(!)で書き下ろしたもの。冒頭日本人だけではないが、プーチンへの幻想を持っている人が多いとあって、6点挙げてある。

 

1.プーチン親日

2.プーチンは反中

3.プーチン保守主義

4.プーチンナショナリスト

5.国際資本主義者と戦う英雄

6.暴力を使うのには抑制的

 

 は全部「幻想」だという。そもそも1999年エリツィン大統領を操っていた資本家集団がロシアの危機を迎えて謀略に巧みな連邦保安庁FSB)の助けを借りたが、FSB長官がプーチン大佐だった。彼は首相に指名され、得意の謀略を使って、

 

チェチェン等に戦争を仕掛け

・国内メディアを乗っ取り

・気に入らない資本家を追放し

・政敵を次々に暗殺した

 

 という次第。以降20年ほど独裁政治を続け、膨大な不正蓄財をしていると本書にある。子分のメドヴェージェフでさえ国内10ヵ所に豪邸を持っているので、昨今暴露されたプーチン宮殿などほんの一角らしい。

 

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 本書は日本政府に対し「ロシア人は破るために約束する」として、安易な北方領土交渉に乗ってはいけない、対中包囲網にロシアを入れてはいけない、経済協力などもってのほかと警告する。敵対関係にあるウクライナ人の主張であり少し割り引く必要はあるが、僕が持っているイメージとそう遠くない人物像だ。ただ彼無くしてあの国が収まっているかどうかは疑問で、その点は著者と意見が異なる。

 

 現在のロシア分析も面白かったのだが、それより興味を惹いたのがソ連解体の時のウクライナの事情。なんと1,500発以上の戦略核と膨大な戦術核を持つ、米国・ロシアに次ぐ世界三位の核大国だったらしい。STARTの制限が1,550発で、これを満たすのは今も米露だけ、中国は精々300発だから、もしその核戦力が残っていれば少なくともG20には入れた大国である。

 

 それがソ連解体時に「非核三原則」を唱え、どこの軍事同盟にも属さないと宣言したことで無力化されてしまった。筆者は当時の指導者が無能で、米露の陰謀で牙を抜かれてしまったと悔しがる。核戦力があればクリミア強奪など、さしものプーチンにもできなかったろう。筆者は日本の「非核三原則」にも疑問を呈します。さて我々はどう応えればいいのでしょうか?