新城彰の本棚

ミステリー好きの自分勝手なコメント

ピーターとアイリスの出会い

 パトリック・クェンティンという作家は、非常に複雑な執筆体制をとっていた。これ自身ペンネームで、ほかにQ・パトリックというペンネームも持っていた。実態は、

 

リチャード・ウィルスン・ウェッブ

ヒュー・キャリンガム・ホイーラー

 

 の共作である。1931~1935年にウェッブが単独もしくは他の共作者とミステリーを発表していたが、2人で書いた最初の作品、1936年発表の本書でメインキャラのダルース夫妻とレンツ博士が登場する。

 

 高校生のころ「二人の妻を持つ男」を読んだのがパトリック・クェンティンの最初の本なのだが、のちにこれはホイーラー単独作品だとわかる。ただこれがサスペンスものだったことから、他の作品に手が出なかった。最近Book-offでこの作者の本をまとめて買ってきて、年代順に読んでいこうと本書を手に取った。

 

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 ダルース夫妻のデビュー作である本書「迷走パズル」では、2人はまだ夫婦ではない。ピーター・ダルースは演劇プロデューサなのだが2年前に妻を劇場火災で亡くして酒浸りになり、今はレンツ博士の療養所でアルコール依存症のリハビリ中だ。女優志望のアイリスも鬱病で入院していて、二人は出会う。ピーターはアイリスを舞台女優にすると公言して一緒に社会復帰を図るのだが、療養所内の連続殺人事件に巻き込まれてしまう。

 

 力自慢の元ボクシング選手である介護人が、拘束衣で自由を奪われて窒息死したのだ。薬で眠らせたり殴って気絶させた形跡はなく、現場に駆け付けた警部は、

 

・いたずらにしては奇妙なユーモア

・事故だとすれば実に奇妙な事故

・殺人とすれば最も頭のいいやり方

 

 とため息をもらす。被害者に無理に拘束衣を着せようとしたら、男6~7人がかりでないと難しそうだ。事件以前にも、ピーターの耳に「逃げろピーター、殺人が起きる」とか、投資家のラリビーには「xx株が暴落する」・・・などの声が聞こえてくる。

 

 加えて入所者が全員一筋縄ではいかない患者、教養ある高貴な婦人が盗癖があったり、能力の高いフットボール選手が(頭を打って)自分はコンビニ店員だと思い込んでいたり、交霊術に取りつかれた若者がいたり・・・。

 

 ユーモアたっぷりではあるけれど、しっかりした謎も意外な解決もある立派な本格ミステリーでした。作者はこのあと徐々に作風を変えたと解説にあります。次の「パズルシリーズ」の作品が楽しみです。