本書(2019年発表)の著者橘玲(タチバナ・アキラ)は、本名非公表の作家。国際金融小説「マネーロンダリング」でデビューしているが、作家としてよりは社会課題に関する論客というべきだろう。Web上に銀髪・グラサンのアニメ像で登場し「歯に衣着せぬ」オピニオンを示す人、という印象を持っている。
池袋暴走事件など「上級国民」は何をしても許されるという風潮の中、出版されたものだから題名は「上級国民・下級国民」となっているが、内容はごくまっとうな社会課題の研究である。恐らく出版社の意向で、この題名となっているのだろう。著者が指摘する「不都合な真実」で主なものを挙げると、
・日本の一人当たりGDPは2001年に世界2位だったのに、2018年は26位。
・日本のサラリーマンは会社を憎んでいる。
・しかし長時間労働をし、生産性は非常に低い。
・日本企業のIT投資が少ないのではなく、投資効果がないだけ。
・平成日本では若い人の雇用を破壊し、中高年の雇用を守った。
これらの意見は、僕にもうなずけるものだ。平成の30年には、団塊の世代の雇用を守ることが政治家の目標だったと筆者は言う。正社員が守られ過ぎているという竹中教授の主張とも合致する。では令和の時代はというと、団塊の世代の年金を守ることになるだろうとのこと。なぜ政治家が団塊の世代を守るかと言うと、投票してくれるから。若い世代が投票しないことが、こうなった主原因だと筆者は言う。
いや投票に行かないだけではなく、引きこもってしまっている若者も多い。政府発表ではひきこもりは60万人ほどだが、ある町で全戸調査をしたところ「隠れひきこもり」が一杯見つかり、その比率で考えると全国では500万人ほどいてもおかしくないとある。
日本だけではなく各国で「分断」が顕著になっているのは、知識社会・リベラル・グローバル化しているトレンドの乗れた人、乗れなかった人の差が大きいからという。近代の急激な技術進歩が、それに拍車をかけている。求められる知識レベルがどんどん高くなるので中間層が消え、ついには10%だった「上級国民」がやがて1%になるだろうという論調。最後はAIの発展でその1%も知識層から転落、平等社会になるかもというオチまでついていた。
少々過激ではありますが、面白い論説でした。著者を少し見直しましたよ。