新城彰の本棚

ミステリー好きの自分勝手なコメント

大使館パーティでの仕掛人

 本書は以前紹介したイーヴリン・R・スミスの「ミス・メルヴィルもの」の第三作。富豪の家に育ちながら25年前に父親が資産をもって失踪、母親もなくなり日銭に困った彼女が持ち前の銃の腕を生かして殺し屋をするのが第一作。その後彼女は画家として高名になり、生活は豊かになったが芸術界の事件に巻き込まれ探偵役をしたのが第二作。

 

 お嬢様育ちで銃の達人という笑ってしまう設定なのだが、押さえるところはそれなりに押さえているミステリーシリーズである。本書(1989年発表)では、彼女は失踪した父親が南米の小国プラデーラで死んでいたことと、父親を殺したのが今の大統領マルティーリヨであることを知る。彼女は「父の仇」を討とうと思うのだが・・・。

 

 もう殺し屋稼業で稼ぐ必要のなくなった彼女だが、義憤にかられて殺しは続けている。主にターゲットになっているのは外交官(不逮捕)特権を持っている悪人。かつて某国の大使が恩人のサムを轢き逃げし、復讐をしようとしたのがきっかけだ。その大使は彼女が手を下す前に事故で死ぬのだが、ニューヨークにはいろいろな悪人があふれている。例えば、

 

・女性をレイプし殺す性癖のある某国大使の息子

・メイドを虐待して死に至らしめる女性権力者

 

 などで、こいつらを殺すため上流階級の人脈をたどって大使館のパーティに潜り込み、ハンドバッグの中の拳銃で一撃必殺というわけ。

 

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 やたら外国要人の殺害が増えていると<ニューヨークタイムズ>などが書き立てるが、秘密を知っているのはかつての代理人で弟ということになっているアレックスだけ。そんな彼女が父親の最後を聞きつけ、なんとか大統領狙撃の機会をと考えるのだが、どういうわけかプラデーラ国出身の男が身辺に現れる。

 

 ひとりは彼女のマンションの管理人、もうひとりはプラデーラ国の若き画家。なんとなく、かの大統領の方もミス・メルヴィルに関心があるようだ。やがて大統領が国連で演説するというニュースが入り、彼女は詳細日程を探ろうとするのだが・・・。

 

 大使館で殺しができるとはいえ、一国の大統領を暗殺するなどハンドバッグ内の小型拳銃一丁では無理な話。彼女がどんな策略でターゲットに迫るのかがミソだが、彼女の周りで起きるドタバタ騒ぎで読者は焦らされるかもしれない。ある意味鮮やかな結末なのですが、本書はどう分類していいか難しいですね。やっぱりユーモアミステリーでしょうか。