1981年発表の本書は、以前「志願者たちの海軍」など3冊を紹介した、ダグラス・リーマンが得意とする小型艦の戦争物語り。「志願者たち・・・」同様、主人公の主な敵はナチスドイツの全金属性高速艇「シュネルボート」。これを英国海軍が「Enemy Boat」と呼んでEボートと略した。
主人公ジョン・ドゥヴェイン少佐は27歳、第二次世界大戦開戦時から小型艇で闘い続けた歴戦の勇士であり、同時に生存者であるという珍しい男。その勇名は敵軍にも知れ渡っており、MTBのエース士官である。彼は5隻のMTBを率いて、黒海の東岸トゥアプセにやってきた。時は1943年、ようやく連合軍の反撃が始まり、北アフリカからはドイツ軍は駆逐され、イタリアへの上陸作戦が計画されている。
東部戦線でもソ連軍がドイツ軍を押し戻し、先年追い出されたクリミア半島奪回を狙っている。しかしソ連の黒海艦隊は弱体、ルーマニアのマンドラに拠点を置くドイツのEボート群に煮え湯を飲まされ続けている。ドゥヴェイン指揮下の5隻、120名ほどの英国海軍人に与えられた任務は、ソ連海軍を助けて黒海のドイツ軍を叩くことである。
地中海への出入り口をトルコのイスタンブールをいう街に扼されている黒海には、大型艦はもちろん小型艦でも出入りが難しい。MTBはクウェートからカスピ海経由で送られたものだ。ドイツ側もトロール船改造軍艦を、北海から陸送してきたりする。
弱体ソ連海軍をナメていたドイツ軍は、ドゥヴェイン部隊の奇襲にあってEボートのほとんどを撃破された上、1隻を分捕られるという失態を演じる。そこでドイツ海軍はヒトラーも目をかけているEボートエース・リンケ少佐を送り込んできた。
ドゥヴェイン少佐とその部下の艇長たちは、より大型で攻撃力も防御力も高い上に5ノットも優速という強敵だけでなく、頭の固いソ連士官、ソ連嫌いのベテラン上司にも悩まされる。乗組員の大半は20歳前、日々の重圧や悲惨な戦場に精神を病むものも出てくる。仲間たちにも傷つくもの、命を落とすものも出てきてドゥヴェイン少佐ら士官は作戦を練る以上に、士気を保つのに苦労する。
最後はお約束のEボート・リンケ少佐とMTBで一騎打ち、さすがの海の男物語でした。この作者で有名なのは「海の勇士ボライソーもの」ですが、それ以外のものばかりもう4冊読みました。ボライソーものも探してみることにしましょう。