新城彰の本棚

ミステリー好きの自分勝手なコメント

軽やかで意味深い国際情勢論

 先月、めいろまさんの「日本人はなぜ世界のニュースを知らないのか」を紹介したが、2021年発表の本書は同じテーマをこのお二人の対談形式で綴ったもの。

 

藤原帰一教授 国際政治学

石田衣良氏 直木賞作家

 

 藤原教授は僕が一番信用している国際政治学者だが、それをある人に言うと「え、NINJAさんとは(思想が)真逆ですよ。特に最近左傾化されてて」と驚かれてしまった。僕はただ「Glibal & Digital」の信奉者で、自分では右寄りとは思っていないのだが。

 

 本書は「COVID-19」禍の中、1年かけて少しづつ進めた対談をまとめたもの。藤原教授は映画好きだそうで「映画の話をしているときはニタニタしていて、国際政治の話だとお葬式のような顔をしている」と言われるらしい。全体で5章に分かれていて、それぞれ、米国、中国&朝鮮半島、欧州、中東&ロシア、日本がテーマになっている。

 

 個々の論点は他の書物で勉強したものが多いが、映画・音楽・小説などを題材にしたカルチャー論が興味深い。冒頭「国際ニュースは、基礎となる歴史的背景を知らないと、とても退屈」とあって、カルチャーを語ることで国際情勢を正しく見られるようにしたいとの意図が分かる。

 

        

 

 米国の章では、トランプ政権からバイデン政権に移行しても分断が収まらず、困った事態だと2人の意見は一致している。これはかつての憧れである、ハリウッド映画などを産した米国に対する幻滅に近い意識のようだ。ミステリーに関する意見交換もあり、

 

・英国の名探偵は、あまり行動せず知恵で事件を解決する

・米国の探偵は、場末まででも出かけて行き、行動で真相を暴く

 

 という。挙げられていたれ例が、フィリップ・マーロウやリュー・アーチャーだった。

 

 ニタニタしていたかどうかは知らず、次の中国の章になるとトーンが変わる。映画の引用もあまりなく、欧米諸国が中国が豊かになれば(日本のように)民主化すると考えたのは甘すぎたとの結論になる。さらに中東&ロシアの章では、ここから第三次世界大戦がはじまるかもしれないとの危惧が伝えられる。

 

 翻って日本、藤原教授は「外国から学ばなくなった」と批判している。アジア諸国などは英語能力で給与が10倍変わるのに、日本では・・・と嘆き節。

 

 帰国子女である藤原先生には及びもつきませんが、同い年でマルドメ環境で育ちながら頑張っている人もいますよ、と申し上げたいですね。