新城彰の本棚

ミステリー好きの自分勝手なコメント

「Brexit」を予見した書

 昨日、一昨日と「Brexit」を巡る動きを庶民目線と政治家目線でレポートしてくれた書を紹介している。本書は1998年発表のフィクション。内容は英国が国民投票EU離脱を決め、さらに米国合流も決めるというものだ。20世紀末ついに統合通貨ユーロ導入が秒読みに入っていたが、英国内には反発の声が大きかった。結局英国はポンドを維持しシェンゲン条約にも入らなかったのだが、もしそうなったら英国の伝統・文化はどうなるという危惧がロンドンの下町のパブで繰り返されたという。

 

 本書は、そんなパブでの与太話を膨らませていったものだと解説にある。時期はブレア政権から30年後。同政権は1997年から10年続いたから、時代設定は2027年かその後ということになる。1973年のEU加盟以降、ついにポンドも無くしてしまった英国は「すべてを大陸に召し上げられてしまった」と感じるようになっていた。しかも今度は欧州統合政府をブリュッセルに作ることで、英国議会も解散させられることになった。

 

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 与党保守党の重鎮だったルパートは、フォークランドの勇士だった父親の遺言で立ち上がった。「Brexit」を掲げて選挙に臨み、マイケルソン首相を破って首相の座に就いた。新しく大臣に登用した若手のポリー議員は、米国政府の密使からのアイデアをルパートに吹き込む。

 

 国民投票で「Brexit」をしたとしても経済的に困窮するだろうが、さらなる国民投票で「米国合流」を決めれば危機は回避されるというのだ。実はその密使とポリーは深い関係にあって後に結婚するのだが、ルパートは迷った末このアイデアを受け入れる。そして市民は、2度の国民投票でそのような民意を示した。

 

 米国51番目のかつ最大の州となったイングランドからは、保守党党首(ルパート)と労働党党首の2人が米国上院議員になった。米国上院はどんなに大きな州でも議員は2人だけだ。ちなみにスコットランドアイルランド北アイルランドウェールズも米国の新しい州である。さらに米国内の政変で、ルパートには副大統領候補のチャンスが・・・。

 

 作者のピーター・プレストンは元<ガーディアン>の記者。労働党ブレア政権の取材をしていたらしい。60歳を過ぎての作家デビュー作が本書。ドイツやフランスのそれらしい元首もでてくる、面白い「架空戦記」でした。戦記ではないかもしれませんが、メインが選挙戦の暗闘なので。