新城彰の本棚

ミステリー好きの自分勝手なコメント

寿司にはシャルドネが合う・・・かな?

 本書は2019年に発表された、「ゴーン事件」の内幕を日産という企業の歴史にまでさかのぼってまとめたもの。著者の井上久男氏は朝日新聞出身のフリージャーナリスト、自動車業界に詳しくゴーン被告にも何度か直接インタビューをしている。

 

 2018年末の日産グローバル本社(横浜市)での取締役会で、ゴーン会長の解任と代表権はく奪が議決された。ゴーン会長は「チルドレン」と呼ばれるイエスマン(のみ)を重用、そうでないものは左遷・転籍等で追い払っていたが、今回ばかりはその「チルドレン」たちも解任動議を満場一致で決めている。

 

 その後東京地検が、金融商品取引法違反(裏報酬を得ていながら記載せず)、特別背任(会社資金の不正使用・経費の私的流用)で身柄を拘束、起訴している。ご存じのようにゴーン被告は2020年の正月にレバノンに逃亡、現在も被告本人に対する裁判は行われていない。

 

 日産は日本を代表するグローバル企業でありながら、ガバナンスには難点があった。戦後の労働争議が華やかなりしころにも、銀行出身の社長が剛腕を振るい社内を抑え込んで自らは豪遊したと伝えられる。

 

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 同社はバブル崩壊後、トヨタに水を開けられるだけではなく、社内の方々が目詰まりして倒産寸前にまで追い込まれた。残された道は海外資本(同業)との提携で、フォードとダイムラーがダメで、ルノーを選択せざるを得なくなった。両社のTOP会談後「寿司にはシャルドネが合う」と言ってメディアを和ませた。

 

 しかしルノー自身経営難で事実上国営化されており、ミシュランから来た経営再建屋カルロス・ゴーンの指揮で息を吹き返したばかり。そのゴーンが実質的なCEOとして、1999年に日産本社にやってきた。「再建屋」は目詰まりを打破するための大胆な人事を断行、大規模なリストラをして1年でV字回復を成功させる。開発車の細かな仕様にも指示をし、今でいう「働き方改革」や若手登用の道を敷いて経営を安定させた。

 

 しかし2006年頃から短期のリストラ効果が薄れ、リーマンショックは乗り切ったものの2010年代になると社内不信と業績不振が目立ち始めた。一方で自身は法外な報酬を受け私的流用し放題では、言い訳のしようがない。

 

 貧しい移民の出身で、カネにはずいぶん汚い男だとある。名誉はカネで買えるとうそぶいていたとも。社内抗争もひどいのですが、こんな会社に入らなくて僕は幸せでしたね。