新城彰の本棚

ミステリー好きの自分勝手なコメント

事前捜査をする組織

 本書(2004年発表)は、以前「憲法が危ない!」を紹介した鈴木邦男氏が、新右翼・合法右翼の組織である<一水会>の代表として公安警察とは永い付き合いでの経験から書いたもの。本人は1999年に代表を退き引退したつもりだったが、相変わらずマークされているし時折ゆえなく「ガサ入れ」をされるという。

 

 よく「オウム」や「共産党」を監視している「公安警察」のことは聞くが、その実態についてはほとんど報道はない。警察小説は多いし、スパイスリラーも多いが、その中間ともいえる公安警察が主役のミステリーは僕も読んだことがない。

 

 筆者は、警察庁の公安課に400人ほど、警視庁の公安部は2,000人ほどいると推定している。ただ公式には規模など公表されていない。警察内部では公安出身者の出世が早いと言われているが、それは「暇なので昇進試験勉強の時間があるから」というのが定説らしい。

 

 表立っては「窃盗の一人くらい見逃しても大事ではないが、テロリストを見逃せば一大事」と公安警察の重要性が説明されている。しかし筆者は、日本でそのように差し迫った危険性ある組織は非常に少なく、公安警察は人余りだという。

 

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 新右翼を30年ほど経験した筆者から見ると、左翼も右翼も非合法活動を掲げる連中はすでに絶えている。新左翼新右翼と言われる人たちの多くは、公安警察がことさら危険と言っているだけの存在。つまり「お客さん」がいなくなると公安警察がリストラされるので、無理に「お客さん」を作っているというのだ。

 

 刑事警察は数々の縛りがあって、よほど容疑を固めないと令状がとれないが、公安警察は「可能性だけで令状がとれる」という。それで冤罪を作りやすくなると、筆者は主張する。テロを起こすかもしれないということで捜査が始められるのだから、これはある意味「事前捜査」。

 

 僕らは、サイバー攻撃対策に「事前捜査」が必要ではないかと議論し始めているが、日本にもそれが可能な機関があったということを知った。

 

これは「予防」か「反撃」か? - Cyber NINJA、只今参上 (hatenablog.com)

 

 本書は最後に「日本が監視社会になっていく」と警告しているが、発表から20年弱経って、その可能性は相当強くなった。ただ「予防」が必要な危機が迫っていることもあり、監視や事前捜査がどこまで許されるかの議論が必要でしょうね。