新城彰の本棚

ミステリー好きの自分勝手なコメント

カゴ抜けをした死者

 本書(1998年発表)は、津村秀介のご存じ「伸介&美保もの」の一編。「長崎異人館の死線」同様、美保が高校時代の同級生真里と節子と共に「女子大生の好奇心旅行」に出かけて事件に巻き込まれる。今回の舞台は大阪発札幌行きの豪華寝台特急トワイライトエクスプレス」。

 

 僕自身は乗ったことがないが、1989年に団体専用列車として運行を開始し、同年末臨時列車になって一般に切符が売り出されるようになった。2015年に運行は終了したが、現在はその後継車「トワイライトエクスプレス瑞風」が営業運転をしている。1998年当時に時刻表によると、大阪発札幌行きの車両は、

 

・大阪 1200発

・京都 1237発

・金沢 1532発

・富山 1620発

・長岡 1848発

・新津 1934発

・洞爺 643発

・南千歳 828発

・札幌着 906着

 

 で運行されている。この間、1300からはレストランでランチが提供されるし、1730~1900が一回目のディナー、1930~2000が二回目のディナーを予約できる。さらに青函トンネルをくぐる翌未明の300からは、トンネル見学イベントもある。朝食も730から予約できる。

 

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 美保たち3人はアルバイトで貯めたお金で本格フルコースディナーも含めてこの列車を満喫するつもりだ。新横浜から新幹線で京都に向かった3人は、新幹線でもトワイライトエクスプレスでも一緒になったリッチな美女紀子と弁護士梶本の2人連れと知り合う。ランチを一緒に食べ、ディナーは2人が1回目、美保たちは2回目の予約だったので会えなかったが、翌朝食も紀子とは一緒になった。しかし列車から梶本は消えていて、札幌のマンションで刺殺体となって発見される。

 

 マンションで物音がしたのが昨夜の2240ころ、列車は羽後本荘あたりを走っていたはず。死体の胃袋からは、紀子と食べたというフレンチのフルコースが出てきた。ディナーを食べた後、長岡などで降りたとしても2240に札幌には着けない。列車内で殺された死者が、列車をカゴ抜けしてマンションまで行ったとしか思えない謎に、例によって伸介&美保が挑む。

 

 本書は作者のシリーズ作中でも、出色の出来と思います。列車トリックだけでなく犯人と被害者の関係などの設定が秀逸でした。それにしてもトワイライトエクスプレスの豪華さはすごいですね。一度乗って見たかった・・・。