週刊誌を買ったことは、恐らく20年以上ない。読むのはほとんど空港のラウンジ、かつては理髪店の待ち時間というのもあったが、これも「QBハウス」の登場でなくなった。ラウンジでよく手に取ったのは「新潮」と「文春」、「朝日」と「毎日」は新聞っぽいのがいやだった。「朝日」の空虚な左寄り論説は嫌いだったし。
そのころの微かな記憶のある「新潮」だが、本書を読んで意外に(というかかなり)右寄りだったと気づいた。本書は「新潮」に2013~14年に連載されたコラム「変見自在」を書籍化したもの。これ以前に1冊/年の割合で7冊刊行されている。
著者の髙山正之氏は、産経新聞出身の記者。国際情勢や近代史に詳しく、独自の視点で記事を書ける人である。今起きていることでも、他の報道が取り上げない過去などを引用して、逆説的な論議を巻き起こす。例えばロシアのクリミア侵攻については、同じようなことを1世紀以上前に米国は南米パナマに対してやっているとして「ロシアとアメリカ、どちらが本当の悪か」の1編に仕立てている。
コラムという枠組みだから、1編は4ページと決まっている。本書にはそれが、59編収められている。それにしても数多く飛び出してくるのは「朝日新聞批判」。曰く、
・南京大虐殺をでっち上げた男を「普通の会社員」と紹介した。
・福島第一原発は、津波ではなく(その前に)地震で潰れたと報道した。
・原子炉の「逃し弁」が不良だったのに東電のせいにしたGEの見解を支持した。
・戦前のビルマにイスラム教徒を入れたのは英国なのに、ずっと前からいたと書いた。
・自衛隊の制服が高価だと報じ、民主党政権に中国製に変えさせようとした。
などと並べ立てる。まあこのあたりまでは納得できるのだが、度が過ぎていると思う話も多い。つまり、
・「731部隊」は米軍のでっちあげ。
・米国に留学するとトンでもない馬鹿になる。
・世界で最も幼稚な言語は、英語と中国語。
ような表記もあるのだ。このような記事は、どのくらいの読者を納得させたのだろうか?トランプ現象に代表される米国の分断は、メディアの分断でもあった。視聴者は自分の聴きたいニュースだけを選べるようになり、親トランプのサイトまでできた。
この傾向、過去の日本にもあったということですかね。