「鷲は舞い降りた」以下の軍事スリラーの名手、ジャック・ヒギンズが第二次世界大戦の地中海戦域での特殊作戦を描いたのが本書(1981年発表)である。北アフリカからようやくドイツ軍を追い出した連合国側だが、歴戦のドイツ軍(しかもロンメル将軍だし)には煮え湯を飲まされた。アメリカ軍の司令官アイゼンハワーは、未熟ゆえに死んでいった多くのアメリカの青年のことを思い、次の作戦での犠牲をいかに減らすかに腐心していた。
次とは地中海の中央に位置するシチリア島への侵攻なのだが、パットン軍団が犠牲少なく島を縦断するには現地マフィアの協力が必要だった。イタリアは古来地域性の強い国、特にこの島では「血の結束」をしているマフィアの力は絶大だ。彼らが連合軍上陸と同時に蜂起すれば、戦意の低いイタリア軍は雲散霧消、少数になったドイツ軍も撤退するだろう。
そこで駆り出されたのが、米国で服役中のニューヨーク・マフィアの首領ルチアーノ。若い頃にリンチを受け死んだと思われたのに生き残ったことから、「ラッキー・ルチアーノ」と呼ばれている。彼を使ってシチリア・マフィアの首領アントニオ老を説得しようというのだ。アイゼンハワーからこの特殊作戦をゆだねられたのは、イタリア史の教授で現地に知己も多い英陸軍のカーター大佐。
カーターはなんとかルチアーノを説得して英国に連れ帰り、アントニオ老の孫娘マリアも加えてシチリア島潜入を図る。その時使ったのが表紙にある夜間戦闘機Ju-88。英軍が鹵獲したもので、戦闘機とはいえ大型で数名なら落下傘降下をさせる母機になれる。夜間戦闘のため機首につけたレーダーアンテナが特徴だ。
例によって危機の連続で、犠牲を払いながらルチアーノとマリアはようやくアントニオ老に会えるのだが、米国に恨みを持つ彼は首を縦に振らない。そこにシチリア駐留のナチス親衛隊が迫ってきて・・・。
やはり悪役のドイツ軍なのだが、プロイセン軍人の家系であるケーニッヒ中佐は人格も備わった将校である。平民出身でナチスに忠誠を誓っているマイヤー少佐とは、ことごとく対立する。ヒギンズの筆は、ドイツ軍の中の葛藤まで描いて見せる。いつものように安心して読める活劇でしたね。まだ何冊か本棚にヒギンズ作品は残っています。大事に読みましょう。