新城彰の本棚

ミステリー好きの自分勝手なコメント

初めてHOTになった湯川准教授

 本書は、東野圭吾の「湯川学もの」の中で最近の長編。この後には「沈黙のパレード」(2018年)があるだけだ。さしもの理系作家も、超常現象・不可能犯罪を科学的手法で解決するネタを、易々とはひねり出せないのだろう。本書(2015年発表)も、2012年に発表した短篇集の中の1編「猛射る」を、大幅に加筆したものだと解説にある。中心となる物理現象<レールガン>は、おそらくそのまま使われている。

 

 デビューから15年ほどが経っても、湯川は教授になっていない。名称変更で助教授が准教授になっただけだ。年齢はさすがに40歳前後となっているが、同期の草薙警部補ともども独身である。

 

 今回明かされるのは湯川の高校時代、バドミントン部と同時に物理研究会に入っていたらしい。その高校の物理研究会が会員不足で存続危機だと、後輩である古芝信吾から聞いた彼は、クラブ会員募集のためのデモ装置制作に協力する。それが<レールガン>だった。

 

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 信吾は優秀な学生だが、両親を亡くし10歳ほど年上の姉と2人暮らし。しかし与党の大物で元文科大臣の大賀議員担当の記者だった姉が、シティホテルで死んでいるのが見つかる。そのころ大賀は地元で「スーパー・テクノポリス計画」を推進中、大規模な研究施設と学園都市を作ろうとしていた。

 

 研究施設の中に「核廃棄物処理」を研究する棟があることもあって、地元の反対は根強い。反対運動や大賀議員自身のスキャンダルを追っていたフリーライターが殺され、被害者が<レールガン>の発射実験を録画した映像をPCに入れていたことから、湯川は草薙らの訪問を受けることになる。さらに信吾が失踪してしまい、どうやら大賀議員を姉の死に関わった仇として付け狙っているのではと思われる。湯川は草薙らと、信吾を探し求めるのだが・・・。

 

 やや短編を無理に引き延ばしたような箇所があり、その部分に東野流の「感動物語」が入ってしまった印象。信吾の信念は立派なのだが、本来クールに事件を解決すべき湯川准教授が、今回ばかりは「HOT」になってしまう。もちろん可愛い後輩のためというのはわかるが、それでもクールにやってもらわないと「名探偵」像に合わない。

 

 そろそろ「湯川学もの」も手じまいかな、と思わせる長編でした。