新城彰の本棚

ミステリー好きの自分勝手なコメント

日本が舞台の対テロ小説

 本書は2009年にNHK土曜ドラマで放映され、その後映画化もされた同題作品「外事警察」の原作本である。作者麻生幾NHKから「テロ対策をテーマのドラマを作りたいので原作を」と依頼されて、本書を執筆したと巻末謝辞にある。対テロのスパイ&軍事スリラーは欧米ではリアルなものが多く、先日紹介した元警視総監の書では、日本の情報機関の活動について直接触れられないので、ル・カレやフォーサイスの小説を引いて説明していた。

 

HUMINT工作に学ぶ - 新城彰の本棚 (hateblo.jp)

 

 日本でこの手の小説を探そうとしても、

 

・柘植久義作品 アクションや戦術は申し分ないが、日本が舞台のものは少ない。

・手嶋龍一作品 インテリジェンス小説としては秀逸だが、戦闘シーンはなし。

落合信彦作品 これもやはりインテリジェンス小説で、陰謀が中心。

大石英司作品 派手な戦闘シーンや戦略は面白いが、区分としては架空戦記

 

 という具合で、本格的なものは思いつかなかった。日本が舞台の本格スパイ&軍事スリラーの候補として、本書を読んでみた。

 

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 主人公は、住本警部補ら「警視庁外事3課」の対テロ特殊班の面々。住本も普通に家庭を持っているのだが、妻には仕事の内容は教えていない。子供のイベント等で顔を知られると任務に支障が出るかもしれないので、近所づきあいもしていない。彼らの組織そのものが「極秘」なのだ。

 

 中東発のテロ旋風が、ついに日本にも上陸するとの気配があり、警視庁幹部の指示で住本たちは得意の諜報網を手繰り始める。住本には中東出身の<ニケ>という情報提供者がいて、彼も「テロ指揮官が日本に来た。しかし手を出してはいけない。あなたたちが危険」と警告する。怪しげな外国人が何人か捜査線上に浮かび、彼らの監視を続ける住本らだが、テロ組織は「外事3課」の情報を持っていて、逆に彼らを狙っていたのだ。

 

 強力な手製爆弾がさく裂し、AK-47が火を噴く。SATにも犠牲者が出る事件が相次ぎ、凄惨な場面が繰り返される。ただのアクションに留まらず、総理の座を狙う官房長官(美魔女!)も出てきて面白い展開をみせるのだが、残念ながらどこかに違和感が残る。やはり日本が舞台だと、凄惨なテロがリアリティを持ってこないのだ。

 

 まあ、リアリティがないのが幸いという見方も出来ますがね。