2007年発表の本書は、おおむね2000年以降の大国元首の外国訪問を例にとり、その場で出された料理とワインについてコメントしたものである。著者の西川恵氏は、毎日新聞の専門編集委員。各地の海外支局勤務を経て、外信部長になった人。「エリゼ宮の食卓」などの著書がある。
国家元首が国家元首に合うということは、必ず政治的目的がある。ホスト側がどのように来客を遇するか、それが一番現れるのが「饗宴の場」だと筆者は言う。どのような食材や調理法、料理の組み合わせ、合わせる飲み物(大半はワイン)によって、政治的な意図が見えるし、客の側がどう対応するかで両国、ひいては国際情勢に大きな影響がある。「饗宴の場」を活用できることは、軍事力などと並んで現代でも大国の資格のひとつなのだ。
かつてニコライ二世がフランスを訪問した時などは、18品の料理が出されたという。しかし皇帝・国王が政治指導者である時代は終わり、今では4品+スープ位が標準。市民目線で華美にならないように、またエコ意識が高くなり、3品+スープ(中国流で言うと三菜一湯)でも欠礼ではない。
例えばEU運営をうまく進めるため、独のシュレーダー首相と仏のシラク大統領はたびたび逢った。何度か両国の間にあるアルザス地方を会場にしたり、アルザスのワイン(当然リースリング)を供して、両首脳は議論をし親交を深めた。
饗宴担当が困るのが「お酒を呑まない人たち」。若いころアル中だったブッシュ(子)大統領は、コーラで十分盛り上がってくれたからまだいい。イスラム系の国の場合には、事件になることもあった。
サウジ:アルコールは呑むだけでなく嗅ぐのも許されないので、テーブルに置くな
フランス:呑む呑まないは自由、ワインは注ぐのが「エリゼ宮」の決まり
と両国が譲らず、サウジの元首訪問が流れたこともあったらしい。アルコールとは別の意味で、最も難しい国は中国だとある。メニューはもちろん訪問時の列車の乗り換えにまで拘り、新幹線のダイヤ変更(お召列車?)を求められたという。その中国でも自国開催の時は、フランスワインを良く使ってくれる。しかし韓国は自国ワインに拘り、この国も「困ったちゃん」だとある。
少し古い本ですが、各国のビヘイビアに変化は無いようです。文中並んでいるワインの銘柄、縁はないでしょうがいくつかは覚えておきますよ。