新城彰の本棚

ミステリー好きの自分勝手なコメント

捜査指揮官ファイロ・ヴァンス

 1935年発表の本書は、S・S・ヴァン・ダインの長編第9作。前半6作に比べ後半6作の評価は一般に高くない作者の作品だが、第7作「ドラゴン殺人事件」と本編は堂々たる仕上がりだと思う。高校生の時に読んで、夏休みの読書感想文に選んだ書でもある。

 

 普通素人探偵であるファイロ・ヴァンスは、友人である地方検事マーカムから事件のあらましを聞き、おもむろに腰を上げて現場に向かう。ペダンティックな警句を吐きながら勝手な捜査をして、時には官憲から白い目を向けられる。だからヴァンスものは、名探偵が登場し現場検証・関係者の聞き取りなどに立ち会うシーンは半分ほどになる。

 

 ところが本書では、ヴァンスとヴァン・ダインは殺人現場に居合わせ、ヴァンスは最初から現場保存に努め、自らマーカム検事とヒース部長刑事や検視官を呼び出す。現場にいた人たちからの事情聴取を、エレベータボーイや看護婦も含めて自ら行う。

 

        

 

 

 事件の舞台はニューヨークの高層ビル街(30階くらい)。化学者ガーデン教授のペントハウスには、家族と競馬好きが集まっていた。ここではリヴァーモントパークでの競馬が実況され、ノミ屋に電話を繋いで賭けが行われていた。前日匿名の通報で「ガーデン宅で何かが起こる」と呼び出されたヴァンスたちもやって来ていた。

 

 馬にも詳しいヴァンスはそこそこ儲けるのだが、教授の甥ウードは無謀な賭けをして1万ドルをすってしまう。直後屋上に出た彼は、射殺されてしまった。一見自殺に見えたのだが、ヴァンスの慧眼はこれを殺人と見なす。官憲を呼んで自ら捜査指揮(!)を取り始める。狡知に長けた犯人は、ヴァンスの目をかいくぐって殺人計画を修正しつつ野望を達成しようとする。犯人の目星は付くものの証拠を掴めないヴァンスは、自らをエサに罠を仕掛ける。

 

 ヴァンスの(時には嫌味な)言動も読者は大好きなので、300ページ余にわたってヴァンスの魅力を堪能できる嬉しい作品になっている。50年ぶりの再会でしたが、感動は同じくらいでしたね。作者の長編はあと2編が書棚にあり、2編を探しているところです。