新城彰の本棚

ミステリー好きの自分勝手なコメント

日本発の国際謀略小説

 シミュレーション・ウォーゲームの中には戦争・戦闘だけでなく、国際謀略(外交ともいう)をテーマにしたものもあった。この種のゲームを漁っていた30歳前後、必然的に国際謀略小説(含むノンフィクション)も読むようになっていた。なかなか日本人作家でリアルなものが書けない分野だが、国際ジャーナリスト落合信彦の作品は面白いと思っていた。「決定版2039年の真実」や「ただ栄光のためでなく」、「モサド、その真実」などは記憶に残っている。

 

 もう本棚には何も残っていないのだが、ある日見つけたのが本書(1999年発表)。イラククウェート侵攻、東西ドイツの統一、ソ連邦解体などの大きな事件のあった1990年に、日本人投資家が米国を動かす陰の勢力「セイクレッド・ウォリアーズ」を相手取った闘いを繰り広げる物語である。

 

 元大手商社マンだった城島は、ロシアマフィアらと組んで「ベルリンの壁崩壊」を演出して得た資金で独立、虎ノ門に投資会社を設立する。社員はわずか3名だが、世界の事情に通じたプロフェッショナル揃いだ。ソ連・ドイツなどにも気脈の通じた連中がいる。彼が今注目しているのはソ連と中東、ソ連ゴルバチョフの改革が行き詰まり崩壊寸前、中東ではイラクサダム・フセインが怪しい動きをしている。

 

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 しかし城島の見立てでは、ソ連に援助を送りながら借金漬けにして解体を図っているのも、イランとの闘いが終わって用済みになったサダムを始末するため暴発させようとしているのも米国の陰の勢力だ。米軍の装備は15年ほどで更新される。更新にあたっては実験場が必要で、この勢力はヴェトナム戦争などを創り上げて実験場を提供してきた。ヴェトナム戦争が終わって15年、そろそろ次の戦争をしなくてはいけない。そこで選ばれたのがサダムというわけ。

 

 この勢力の動きを読んだ城島は、東西ドイツ統一時の両マルクのれーとや闇ルーブルの為替価値などを操って資金を増やしていく。さらに中東で事件が起きれば原油が上がるとこれも手を打つ。陰の勢力の側も城島の動きに気づき、妨害を図るのだが・・・。とてもリアリティのあるストーリー展開で、城島チームの何気ない台詞に平和ボケ日本への皮肉が詰まっている。

 

 終盤KGBの美人暗殺者と城島の恋の話など、ちょっと行き過ぎのエピソードもあるのですが、とても面白い国際謀略小説でした。この手のものを書ける日本人は作者くらいですかね。