新城彰の本棚

ミステリー好きの自分勝手なコメント

共謀罪がキーワード

 本書は、まだ東京オリ/パラが2020年に行われると考えられていた2017年に、「テロリストが東京オリ/パラを狙ってくる。あと3年もない」と警鐘を鳴らす目的で出版されたもの。著者の今井良氏は、NHKから民放に移り警視庁担当を務めた人。「マル暴捜査」などの著書がある。

 

 全230ページ中、190ページまでは過去のテロ事件を列挙していて、一覧できる以上の何かがあるわけではない。近年のISISのテロだけでなく、各国で今世紀に起きている事件は網羅されている。また日本についても1960年代からのテロ事件を取り上げていて、そういえば僕の子供の頃は、爆弾テロや狂信的集団の犯行なども多かったと思い出させられた。

 

 2020年の警戒すべきテロについても、首相官邸、国会、日銀、原発施設から市街地、花火大会など狙われそうな場所が挙げられていて、どんな攻撃があり得るかをシミュレートしている。そこまでは大して興味を惹かない本だったのだが、最後の「サイバーテロ共謀罪」の章は面白かった。

 

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 サイバーテロについては僕も多少の知識はあるので新味は少なかったが、共謀罪については面白い視点からの分析だと思った。2017年に3度の廃案を乗り越えて「改正組織犯罪処罰法」が施行された。ここで新設されたのが「共謀罪」、複数の犯罪(予定)者が犯罪を企画し相談しただけで罪になるというもの。

 

 確かにこの運用がなし崩しに広がると、政権に都合の悪い人間(野党の論客や一部のメディアの中心人物)を「事前逮捕」できてしまう可能性がある。改めてどのような罪が該当するのかと言うと、277もある。対象は、放火や強盗、殺人といった分かりやすいものだけでなく、海底ケーブル破壊や爆発物の保持、競馬のノミ屋のようなものから、偽りによる消費税や関税逃れ、特許権侵害など多岐にわたる。

 

 警察庁幹部が「共謀罪」の成立を受けて、「当面暴力団や薬物組織などにしか使えないだろう」と語ったと筆者は言う。彼らははっきりとした組織的な社会悪だからだ。しかし運用はこれに留まるまい。大きな組織背景をもたないテロを予防しようとしたとき、2人でウイルスを作ったならこの法律が適用できるからだ。

 

 サイバー攻撃対策には、「事前捜査」による予防が一番と思っていました。今年新設される警察庁のサイバー局にはそれも期待したのですが、なるほど「共謀罪」適用という手がありましたか。