新城彰の本棚

ミステリー好きの自分勝手なコメント

名家を継いだ若い未亡人

 1980年発表の本書は、シャーロット・マクラウドの「セーラ・ケリングもの」の第二作。以前ノースカロライナの女性判事デボラ・ノットのシリーズを「大河ドラマ」と評したが、このシリーズもセーラの成長物語として「大河」の要素が強い。

 

 前作「納骨堂の奥に」で、最愛の夫アレクサンダーと難しい姑キャロラインを亡くし、ケリング一族の中核の家を継ぐことになってしまった若い未亡人のセーラ。市内の邸宅も埠頭の別荘も、実は二重抵当に入っていた。キャロライン自慢の宝石類はイミテーションに替わり、このままだと2軒の家も差し押さえられてしまう財政危機だったことを知って唖然とする。

 

 おカネは全て夫と姑が握っていたので金銭リテラシーもないセーラは、前作で知り合った美術鑑定家ビターソーンにも助けられて、邸宅で下宿屋を始めることを決断する。夫や姑の寝室、客間や談話室もある豪邸で、半地下室や屋根裏部屋まで活用すれば、残ってくれた女中のマリポーサ、その友人で執事として雇ったチャールズと暮らしながら、6名の下宿人を入れることができる。

 

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 再三パーティをしていたホールで、朝晩の食事も出せばいい下宿料が取れる。家の格に拘ってくる叔父・伯母・従兄たちの反対を押し切り、新年には下宿屋を開業できた。集まってきたのは、中年のソンペルディ夫人、まだ学生のジェニファー嬢、会計士のポーター=スミス、MITのオームスビィ教授、クィックフェンというお騒がせ男。最後の一部屋にはビターソーンが入ってくれた。

 

 朝食や夕食の場で顔を合わせ、打ち解け始める下宿人たちだが、クィックフェンだけはトラブルだらけ、誰からも嫌われていた。その彼が、ある日ボストン地下鉄で事故死する。ただセーラが逢ったホームレスの老女メアリは、彼は線路に突き落とされたという。

 

 さらに、クィックフェンの空き部屋に入った新しい下宿人ハートラーも、イオラニ宮殿大好きの困った老人。彼もある日近くの公園で殴り殺されてしまった。その部屋は「呪われた部屋」なのか?ハートラー以上に困ったちゃんの妹が現れて、セーラの下宿はてんやわんやに。

 

 「セーラもの」は「シャンディ教授もの」と違ってシリアスなトーンなのだが、本書では多様な下宿人たちが「あーだこーだ」と騒ぐシーンにユーモアがあります。白人社会でジプシーなどのマイノリティの生活も垣間見える、社会派ミステリーでした。