新城彰の本棚

ミステリー好きの自分勝手なコメント

個人の「メディアリテラシー」

 今月、ネット上の誹謗中傷対策として、侮辱罪の厳罰化が閣議決定されている。これまで「30日未満の拘留か、1万円以下の罰金」だったものを「1年以下の懲役(or禁固)か、30万円以下の罰金」にするというもの。インターネットの拡散力を考えればこれでも軽いと思われるかもしれない。

 

 本書は、まだここまでの議論もなかった2014年に発表されたもの。ようやく公職選挙法が改正されて「ネット選挙」が出来るようになった頃の書である。5人の弁護士が事例をいくつも紹介しながら解説をしていて、鳥飼総合法律事務所の鳥飼代表が全体を監修している。

 

 公選法改正で、候補者が電子メールで呼びかけることはできるようになったのだが、有権者はこれができない。にもかかわらずSNSで選挙に関係する情報をやり取りすることは違法ではないという、分かりにくいものだとある。ネットを使って当選運動も落選運動もできることはできるのだが、そこで問題になるのは「フェイクニュース」。

 

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 本書が出版されて2年後には米国大統領選挙で「フェイクニュース」が吹き荒れるのだが、本書は選挙の話というより個人の「メディアリテラシー」を喚起する内容になっている。関連する法律は、

 

著作権法 例:長すぎる引用

・金融消費取引法 例:風説の流布

・刑法の名誉棄損罪、侮辱罪 例:行き過ぎた悪口

・同信用棄損罪、業務妨害罪 例:企業への悪口、虚偽情報の拡散

 

 など。これまでは不特定多数への情報提供は、メディアなど特定事業者や作家など特定の職業を持った人しかできなかった。彼らには上記のようなことにならないように「リテラシー」を徹底出来たのだが、インターネットの登場で誰もが情報発信ができてしまうようになった。その「誰も」へのリテラシー教育が不十分ということだ。

 

 また、個人が被害者になった場合の対処法にも触れてある。選択肢は、

 

1)反論する

2)削除を請求する

3)損害賠償を請求する

4)謝罪広告の掲載を請求する

 

 なのだが、個々のやり方や問題点、果ては弁護士費用の相場まで載っている。フェイクニュースを拡散されてしまえば、簡単に対処は出来ないものだが、これらも参考になった。

 

 本書にある事例には、僕のブログもきわどいところにあるなと思わせるものもありました。僕自身がリテラシー見直しをする機会となった書でしたよ。