新城彰の本棚

ミステリー好きの自分勝手なコメント

「コード」による法の執行

 2019年発表の本書は、学習院大学の法学者小塚荘一郎教授のデータ関連の法学解説。仮想通貨や自動運転などについての論文はあるが、デジタル化は法制度に極めて広い範囲で影響を及ぼし、それを概観する書としてこれをまとめるのは大変だったという。タイトルにAIとあるのは、あとで出版社が付けたものだろう。内容はデジタル時代の法制度の課題が中心だ。まず今起きている社会の変化として、

 

1)取引の形態が、モノからサービスに移る

2)取引の対象も、(有体)財物からデータに移る

3)取引のルールも、法や契約からコード(規範)に移る

 

 の3点を挙げている。1)については、国境を越えてサービスが供与されるにあたり、国の法律が適用できないケースが増えているとある。例えば、日本では認められていない医療サービスでも、インターネット経由で受けることが容易になる。そこで国際間の協定(例えばTPP)が重要になってくる。

 

        

 

 2)については、データ窃盗罪がないなどの例が知られていて、20世紀の頃から「情報法」の議論はあるという。ただこの議論、世界中で進展していないのが現状だ。僕にとって気付きになったのは3)。例えば自動運転車がスピード違反しないようにするのは、法律や罰則でなく規範をインプリしたプログラムでできる。「法がコードに替わる」というのは、こんな事を意味する。この場合「コード」とは規範・規則も意味するし、プログラミング・コードとも考えられる。法同様に契約も、これに置き換えられていく。

 

 技術の発展が早く、法整備が追い付かない面はあるが、全てを法や契約で縛らなくてもいいという主張らしい。ただし「コード」を制定することには重大な意味があるので、そこには十分な議論と倫理が無くてはならない。なるほど、これが「Ethics of AI」なのかと納得した。

 

 「情報法」の議論停滞ばかり嘆いていましたが、「コード」による執行というのはいいアイデアですね。