新城彰の本棚

ミステリー好きの自分勝手なコメント

<クーリエ・ジャポン誌>上の叡智

 2021年発表の本書は「COVID-19」禍を受けての新しい世界展望について、世界16名の叡智が語ったもの。<クーリエ・ジャポン誌>は僕も時々読んでいる、Web上の知的メディア。本書は2020年に掲載した記事をベースに、補筆するなどして主張を1冊にまとめている。

 

 内容の半分以上は、各国政府の「COVID-19」対応の分析や評価に充てられている。そこから普遍性が生まれる場合もあるが、今となっては結局「感染する人は感染した」状況なので、その時点の是非を問うても仕方なかろう。より重要だったのは、それ以前から台頭していた「Global & Digital」の流れについて識者がどう評価し、あるべき姿を語るかということ。印象的な発言がいくつもあった。

 

        

 

・世界の古い秩序が次々に崩壊、新しいルールが示されていない

新自由主義とソリューショニズムは「悪い警官・いい警官」の役割をする

・「公」がデジタル・プラットフォームに主権を持つべきだ

・生涯で(住居の)移動距離の少ない人ほど、ポピュリズムの罠に落ちやすい

脆弱性は「無秩序を嫌うもの」だが、ある程度の無秩序がないとより脆弱になる

・非接触型技術を使う<スクリーン・ニューディール>は社会の質を下げる

・現代資本主義社会では、幸福は豊かさの絶対量より豊かさが増える過程にある

・資産への累進課税と大規模株主権限の縮小で、ビリオネアを失くすべき

・貧しい人々への収入や教育の改善によって、世界全体の格差を無くす

能力主義の傲慢、成功者は本当に自分の力で成功したのかを問い直せ

・「底辺」がどこで、そこがいかに悲惨な状況かを理解せよ

 

 「COVID-19」禍が、分断や格差を加速したという点では一致した論調だ。また心理学者が「Resilienceが大事」とし、哲学者が「最悪に備えよ」とするのは、僕らの業界にも有益な言葉でした。ピケティ先生の「資産への累進課税」には異論がありますが。