新城彰の本棚

ミステリー好きの自分勝手なコメント

ヒトのグローバリゼーション

 2019年発表の本書は、2017年に起きた「蓮舫二重国籍問題」を受けて、弁護士・法学者・ジャーナリストらで結成された<国籍問題研究会>のレポート。日本は二重国籍を公式には認めていない国だが、少なくとも90万人の重国籍者がいる。特に「一つの中国」原則があり国交のない台湾との間には、多くの重国籍問題があるという。「蓮舫問題」はそれにスポットライトをあてたのだが、少なくとも今までに日本の国籍法の問題点を解消しようという動きは感じられない。

 

 まず「蓮舫問題」だが、民進党の党首選挙と並行して有力候補だった蓮舫議員の国籍問題を、評論家の八幡和郎氏がとりあげた。彼女は台湾のバナナ王と言われた人の孫、台湾人の父親と日本人の母親の間に産まれた。台湾(中華民国)は父系戸籍の国なので、謝蓮舫という名前で台湾国籍を(自動的に)持った。

 

 モデル・タレント業では「蓮舫」という芸名を使い、村田姓の日本人と結婚して村田蓮舫となり日本国籍を得ている。その後国会議員となっても「蓮舫」という通称を使っていた。その彼女が最大野党の党首となる気配が出て、急に「台湾国籍の総理大臣」ができるかもしれないと騒ぎになった。

 

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 民進党党首選挙は彼女の圧勝に終わったが、この問題が尾を引いたのだろう、10日ほどで党首辞任に追い込まれ、民進党自体が分裂することになる。もし誰かが野党瓦解を狙った問題提起をしたのなら、見事な成果を挙げたわけだ。

 

 しかし問題の本質は、日本が重国籍を認めない立場なのに、国籍法に抜け穴があることだろう。重国籍を認める国とそうでない国があるため、国際結婚で産まれる子供、結婚して外国籍を得る人などが重国籍を持つこと自身はおかしくはない。日本の国籍法は日本国籍を選んだらもう一つの国籍は離脱するよう求めているが、調査もしなければ罰則もない。また国籍離脱を禁じている国もあって、強制はできない。

 

 研究会レポートでは、日本人の中にある「重国籍はズルい、認めてはいけない」という空気がより問題だという。韓国では少子化もあって、優秀な外国人を招くために重国籍を認めるようになった。グローバル時代、日本も本来そうあるべきなのに重国籍を認めようとはしない。

 

 この議論、もっと産業界などでも取り上げるべきでしょうね。ヒト・モノ・カネ・データのグローバル流通は、産業振興に役立つはずなのですから。