新城彰の本棚

ミステリー好きの自分勝手なコメント

ここにもあった分断国家

 1ヵ月前、新疆ウイグル自治区での中国政府の残虐行為を告発した「ジェノサイド国家中国の真実」を紹介した。その3人の著者のうちの一人でモンゴル出身の楊海英静岡大学教授が、故郷内モンゴル自治区での中国政府の所業を書いたのが本書(2018年発表)である。

 

 モンゴルも分断国家で、北はモンゴル国、南は中国の内モンゴル自治区だ。モンゴル国の北はロシアである。かつては英雄チンギス・ハーンを産み、ユーラシア大陸の多くを支配したモンゴル族だが、今はこれらの地域に押し込められている。しかも内モンゴル自治区では、新疆ウイグル同様のジェノサイドが行われ、人口の大半は漢民族になってしまったとある。

 

 本書のタイトル「中国という神話」の意味は、習大人が「偉大な中華(漢)民族の国」と言っているが、それは神話にすぎないということ。かつての「元」はもちろん、「明」も「清」も漢民族国家ではない。農耕民族である漢民族は、人口は多いが軍事力・支配力に欠け、少数北方騎馬民族の政権を受け入れざるを得なかった。その歴史を改変して「世界に冠たる漢民族」というフィクションを内外に知らしめているのが、現政権ということだ。

 

        

 

 中国には子供が読む「小児書」があって、歴史を歪めたフィクションを子供たちに刷り込む「洗脳」の道具になっている。分かりやすいイラストで、

 

チンギス・ハーンは中国人

漢民族の王朝はずっと西域を支配していた

・正義の味方八路軍が日本の鬼たちを追い出した

 

 などと教え込むわけだ。

 

 習大人が敬愛する毛沢東が行った「文化大革命」について、本書は詳しく記している。発端はスターリン死後の共産党国家の主導権争いで、毛主席がフルシチョフに勝つための運動だった。1964年に核兵器を開発した毛政権は、1966年から10年間民主派の知識人を粛正して政権基盤を固めた。犠牲者は1,000万人に及ぶという。内モンゴル自治区でも、人口の20%にあたる30万人が犠牲になった。

 

 第二次世界大戦後に南北モンゴル統一の機会もあったが、南北の共産党大国(スターリン&毛)によって踏みにじられたとある。チベットや新疆ウイグルも含めて、漢民族が静かな侵略を続けていると告発する。そのマグマはテロという形で習政権を襲うだろうともある。

 

 帯にあるように、習大人のアキレス腱は内陸アジアにあるということのようです。