新城彰の本棚

ミステリー好きの自分勝手なコメント

TOP1万人の人事を決める選挙

 正直まったく評価できない、韓国文政権の5年間が終わった。前の朴政権の最後がひどかった(支持率5%)から、当初80%という高支持率を得て始まったのだが、その後は失政続き。今回の大統領選挙では、激戦の末保守系野党「国民の力」の尹候補が、進歩派の与党「共に民主党」の候補を破り政権交代を成し遂げた。

 

 5年1期と定められている韓国の大統領制、過去に長期政権から「終身大統領」を目指した人たちもいて、現行憲法でそう定められたものだという。この制度はいい面もあるが、弊害もある。つまり、

 

・1~2年目はいいが、折り返し点を過ぎると求心力が急速に低下

・未来志向のことは何もできなくなり、直近の大統領選挙がクローズアップされる

 

 ということ。加えて大統領権限が強すぎるので「大統領選挙終了の翌日から、次の大統領選挙の準備が(あからさまに)始まる」という。権限が強い例として、大統領は司法分野を含め中央政府のTOP1万人の人事を決めることができるほどだ。もちろん、地方政府や、場合によっては民間企業までその人事権が及ぶ。

 

        

 

 1万人以上のポストの役割や、そこに充てる人材を大統領本人が知るはずはないから、取り巻きが大きな権力を振るうことになる。そんな事情を紹介してくれたのが本書(2019年発表)。著者の池畑修平氏NHKのソウル支局長だった人。

 

 韓国は格差の大きい国、「金の匙と泥の匙」という言葉があり、富裕層や権力者に近い人は「金」の恩恵が、そうでない大多数の一般大衆には「泥」の悲哀が待っているわけだ。朴槿恵大統領が罷免された背景には、彼女が「大統領の娘」だったころからの付き合いのある宗教家崔一族との特別な関係がある。全ての政策を崔家が決めて、朴は操り人形だったという批判だ。

 

 光州事件はじめ、韓国の近代史には「広場民主主義」が現政権に抗う事例が多い。朴政権もこれ(ロウソク革命)で倒れた。それを主導した文候補は、大統領に就任するや保守派を徹底的に弾圧する。筆者は北朝鮮との宥和も、真の目的は国内保守派潰し。現に平壌での首脳会談では、「特権・腐敗・反人権」を糾弾する演説をした。北朝鮮体制のことではない、韓国国内への非難である。

 

 韓国内には「南南葛藤」という言葉もある。保守派・進歩派の激しい対立を指したものだ。新大統領にはなりましたが、この国の行方は不透明のままですね。