新城彰の本棚

ミステリー好きの自分勝手なコメント

市民に求められる判断力

 2017年発表の本書は、国際ジャーナリストの廣淵升彦氏が日本メディアの問題点を示し、市民への警鐘を鳴らしたもの。ロシアのクリミア併合などがあり、日本の報道が偏向していることが執筆のきっかけになったと思われる。今やロシア・ウクライナ紛争は「情報戦」の様相を呈しており、市民として報道をどう判断していくかが当時にも増して重要になってきている。

 

 冒頭日本メディアの問題点として、特に新聞には驕りがあると指摘されている。確かに明治期、新聞は旧士族が発行し始めていて「庶民を啓蒙する」意識が強かった。それは戦後になっても変わらず、

 

記者クラブの存在が、若い記者を含めて増長させる原因

・クローズドな会で政権中枢から話を聞くだけで、偉くなったような気になる

・クラブは閉鎖性が強く、外部を見ないし外部からの干渉を嫌う

・民間への取材では「お車代」が日常化していて、報道が歪みやすい

 

 傾向にあるのだ。「自分たちは絶対正しい」として、言論の多様さを認めなくなっている。TVニュースでも多少その傾向はあり、筆者自身TV朝日報道制作部長も務めているが、海外経験のない若手記者&プロデューサーが安易な道に走るのを防げなかったと自省している。

 

        

 

 筆者は、ニューヨーク・ロンドン支局など海外を廻り、欧米のラジオやTVの報道スタンスを間近に見ている。伝説の放送網のTOP達に直接会って、話を聞いてもいる。

 

NBCのデービッド・サーノフ

CBSのウィリアム・S・ペイリー

・ABCのレナード・ゴールデンソン

 

 彼らはいずれもユダヤ人かユダヤ系だが、米国のメディアがユダヤに支配されているというのは誤りだと筆者は言う。彼らはいずれも、人一倍の努力で新しい「メディア」を作り上げてきた人たち。しっかりとしたポリシーをもっている。ペイリーは「視聴率だけでネットワークの評価は決まらない。社会を動かしている中堅層・知的階層の支持が重要だ」といい、ニュースキャスターに必要なのは「信頼」であって「人気」ではないとしている。

 

 平和に欠かせないのは「知力」で、決して「情緒的平和願望」ではないというのが筆者の結論。特に日本の報道は偏向が目立ち、新聞やTVニュースも耳障りのいいことしか言わない今、市民に求められるのは「判断力」だということです。