昨日「民族問題の世界地図」で、東南アジアから中近東までの民族紛争のタネを勉強した。本書(2017年発表)は元外務省分析官の佐藤優氏が、同志社大学で10回にわたって外交論を講義した内容から「民族問題」に関わる部分を抽出したもの。上記の書で語られなかった、ウクライナと琉球を題材に民族問題の根と対処のケーススタディをしたものだ。
筆者は神学者でもあり、その方面の記述や引用が多いのが、僕には悩ましい。ただ「民族」ってなに?という冒頭の説明は、うなずけるものだ。それは、
1)原初主義 言語やDNA、宗教や文化などに共通のルーツをもつ区分
2)道具主義 為政者・エリート層が支配のために考え、強制した区分
で、日本民族は言語やDNAという原初主義が主流。日本列島ではメジャーな民族ゆえに、民族問題については理解も経験も少ないという。道具主義でユダヤ人を差別したナチスドイツのような発想は、日本には産まれづらいようだ。
ソ連の専門家でもある筆者は、民族問題を巧みに操った一番の政治家はスターリンだという。グルジア出身でスラブ民族ではない彼は、ソ連のTOPに就いた後も「・・・スタン」国の線引きに、民族(というより言語か)の分布を使ったとある。またバルト三国へのロシア人の移民も、各国の事情に応じて人数や住み方を変えていた。三国を上手く支配するための、民族懐柔策だったわけだ。
そして話はウクライナへ。今でこそ対立しているロシアとウクライナだが、ソ連時代にはロシア人かウクライナ人かの意識は、どちらの市民にもなかった。ただ言語は異なり、それがソ連邦崩壊で国境が大きな意味を持ち始めると、生活に影響が出てきた。その結果が内戦にまで及び、今も両国間には深い溝がある。
母方に沖縄の血筋を持つ筆者は、沖縄問題の底辺には日本人と琉球人の「民族問題」があるという。太平洋戦争前から日本人は琉球を植民地扱いしていたが、琉球人はそれを感じてなかった。戦後の米国占領統治を経ても、日本人の意識も琉球人の意識も変わっていない。それが近年の「オール沖縄」に代表される、反日運動に繋がっていると筆者は言う。
誇りある琉球人は「日帝支配」などとは思っていないが、それをいいことに、また民族問題に無知なゆえに日本人は、ある種の差別を琉球人にしているという。「琉球独立」には反対だという筆者ですが、日本人も目覚めなければと言っています。