新城彰の本棚

ミステリー好きの自分勝手なコメント

次のリスクへの勉強材料?

 もう11年も経ってしまったのかと思わせるが、本書は2011年3月11日の東日本大震災を受けて、企業がどのように動いたかのドキュメント。日経の記者を中心に63名が執筆者として名を連ね、震災半年後の7月に出版されたものである。なぜこの本を改めて読んだかというと、今日本は「次なるリスク」に直面しているからだ。

 

 米中対立やウクライナ紛争、各国の内政事情も良くない。世界的なインフレも止まらず、経済的にも不安がある。そんな環境下で、民間企業が国家やそれに準じた資源を持つ悪意のある集団に攻撃される可能性が高まっている。

 

 地震や洪水もサイバー攻撃も、それによって起る、例えばデータセンターが停止する事象に対してやるべきことは似通っている。だから「次なるリスク」への対処のヒントになればと思ったのだ。

 

 本書には、鉄鋼・自動車・重電機器から紙製品まで幅広い分野の製造業、建設業、輸送業、エンタメ産業、小売業、人材派遣業など多くの企業の現場がどう考え動いたかが紹介されている。加えて超大手から零細に近い規模の企業の経営者の、行動や思考、震災後の見通しなどを30名分まとめてある。

 

        

 

 帯にあるように、日本企業の現場力には目を見張るものがある。まとめて見ると、

 

◇初動が早いこと。とにかく大きな災害だとして自社でできることを指示を待たずに社会全体のために動き出す。

 

◇現場同士の連携。よく縦割りと揶揄されるのだが、危機にあたってはライバルとも手を組み、必要な資源をシェアするなどの措置が迅速に取れる。

 

◇柔軟な対応。代替生産、被災地支援物資集積、要員派遣、特別なルートの開拓など、経営者が考えた時にはすでに青写真ができている。

 

 のような次第。ただ各社の取組には敬意を示しながら、

 

「事前にこう考えて訓練していたから、ここは上手くいった。あれはダメだった」

 

 という準備から事業継続計画(BCP)発動までのプロセスは、全く紹介されなかった。例えば自動車産業では、2007年の中越沖地震で点火プラグのメーカーが被災し、完成品が作れなかった教訓がある。そこで東日本大震災の時には、このように改善していたという話があってもいいはずだ。

 

 「次なるリスク」に備えて、事前準備・シミュレーション・訓練などで<Resilience>を増しておくこと、そのヒントは本書にはあまりありませんでしたね。ちょっと残念。