新城彰の本棚

ミステリー好きの自分勝手なコメント

臓器移植の裏ビジネス

 1994年発表の本書は、ニック・ガイターノのデビュー作。作者についてはシカゴ在住である以上の情報はほとんどなく、手慣れたストーリー展開などからすでに成功を収めた作家の別名義での発表ではないかとも言われている。

 

 原題の「Special Victims」というのは、被害者が有名人や富豪、さらに特別な事情がある場合に登場するシカゴ警察の「特殊犯罪班」が扱う事件の被害者を指す。本書で扱われているのは、臓器移植に関わる犯罪。それも単純な闇の臓器ネットワークなどではなく、

 

・高額報酬で、有名人・富豪などが求める臓器を提供

・血液型や移植に当たっての適性などを精査したうえで、臓器提供者を見つけ、

・提供者を臓器を傷つけないように殺害して、

・必要とされる病院等に届ける。

 

 というビジネスモデル。これを成し遂げたのが「コレクター」と呼ばれる犯罪者で、20年近くに渡って裏稼業として殺人をしている。当然医学にも詳しい犯罪者で、必要とあれば「半殺し」状態で新鮮な臓器を届けるという芸っも見せる。もちろん、死んではいないが蘇生はしないように処置してあるのだ。

 

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 今、シカゴの大病院にはマフィアのドンの娘ソファイアが入院している。肝臓疾患が重く、肝臓移植以外に助かる見込みはない。そこでドンは知った裏ルートで「肝臓を発注」してきた。仲介した別のドンも、かつて心臓をコレクターに発注して今も生き長らえている人物。コレクターはソファイアに適合する肝臓を持つ、女子大生に目を付けた。

 

 一方「特殊被害班」のトゥリオ警部補は、以前からコレクターの存在に気づいており、わなを仕掛けもしたのだがその正体に迫れてはいない。捜査に血道を上げるゆえに家庭は崩壊、妻子は事故の犠牲になってしまった。もともと人付き合いの悪いトゥリオは警察の中でも孤立、メディアとも衝突して事件の最中にクビになってしまう。妻が死んだ後付き合い始めた恋人からも、すっぱり捨てられる始末。

 

 最初はトゥリオがヒーローかと思っていたのだが、コレクターや彼を取り巻く闇の世界の犯罪者たちの方がずっとカッコいい。コレクターの慎重なうえにも慎重な手口にはうならせられるし、犯罪者としてだが矜持ははっきりしている。最後のどんでん返しまで、この作者はなかなか読ませますね。続編が出たと聞いていないのが残念です。