新城彰の本棚

ミステリー好きの自分勝手なコメント

<ジャンクタウン>の幽霊

 1968年発表の本書は、これまで2作品を紹介したリリアン・J・ブラウンの「シャム猫ココシリーズ」の第三作。なんとか<デイリー・フラクション紙>に職を得たベテラン記者ジム・クィララン。相変わらずカネには困っていて、<ココ>と<ヤムヤム>という2匹のシャム猫を連れて、安ホテルで暮らしている。猫の食費が馬鹿にならないのだ。

 

 クリスマスを控えて、社内では報道賞の争奪戦がたけなわ。これに優勝すると、ちゃんとした住まいを得るに十分な賞金が貰える。クィラランが目を付けたのは、スラム街に近い<ジャンクタウン>、卒爾も分からない様な人たちが営む骨董屋がひしめく街だ。

 

 前々作で美術評論の世界、前作で住宅装飾の世界を担当したクィララン、どちらも苦手の領域だが、骨董も苦手だ。しかし賞金に目がくらんだ彼は、無謀ともいえる取材に挑む。<ジャンクタウン>では、皆に好感をもって迎えられていた青年アンドリューが、ハロウィン前に死んでいた。警察は事故死としていたが、不自然な死であり殺人とも幽霊の仕業とも考えられた。風采は立派ではないが、きちんと仕上げた口ひげがトレードマークのクィララン。事件の匂いを嗅ぐと、口ひげが震える。

 

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 骨董の取材を続けるうち、CCという骨董屋の古い家に部屋を借りることになったクィラランと猫たち。幽霊が出るという噂もあるが、アンティークに満たされた部屋をみんな気に入っている。

 

 クィラランが交流する骨董屋は、耳の遠い老婆・父親が全部違う三姉妹・元俳優という男・引退した教師・色情狂の女など風変わりな人物ばかり。中でもアンドリューの恋人だったというメアリーは、美女だが陰のある女。のちに名家の娘で銀行家の父親の元から出奔してきたことが分かる。

 

 多くの骨董商はそれだけでは生計が立たず、副業(悪事?)を持っていたり、本業はあって道楽でやっているケースがほとんどだ。そんな街で第二の事件が起き、クィラランは仕事そっちのけで事件の解明に乗り出す。今回も<ココ>の活躍は目覚ましい。古い家の仕掛けを見破り、幽霊の正体を暴き、ついには真犯人をKOする。

 

 猫好きのための軽めのミステリー、熱烈なファンはいたようですが部数は伸びず、3作でしばらく休眠することになります。そのうちにたくさん出版されるようになるのですが、それは後の話ということで。