新城彰の本棚

ミステリー好きの自分勝手なコメント

外交の勘なきは亡国

 昨日元外務省分析官佐藤優著「ヤンフスの宗教改革」を紹介して、外交官には神学も必要との主張に(そこそこ)納得した。しかし一国の外交を担う者として、もっと多くの知識や教養が必要なはず・・・と思って手に取ったのが本書(2020年発表)。<外務省研修所>の現役所長である片山和之氏が、その成り立ちや役割、外交官の採用から研修の実態を紹介したものだ。

 

 <外務省研修所>は第二次世界大戦敗戦直後の1946年に、戦前外交の反省を込めて設立された。反省とは、

 

・国際情勢を冷静客観的に分析できる外交センスに欠けていた

・外国語に堪能、国際法に通じるなど政策面より技術面を重視した

 

 ことで、外交を破綻させ国家を破滅の淵に追いやったというもの。吉田茂氏が1932年に米国大統領の側近から聞いた「外交の勘なき国民は亡びる」との言葉が、正鵠を射ていたことがわかる。1880年から外務省の法律顧問を務めたデニソン氏は、日本人を評して「ミリタリーの勇気はあるが、シヴィルの勇気に欠ける」と言った。同氏はまた「外交官の真髄は、教うべからず、習うべからず、機微の間に習得するにあり」とも言っている。

 

        

 

 それではどのような資質が外交官に求められるのかというと、

 

1)外交の間口は広く、奥も深い。問題の所在、本質を総合的・大局的に把握できる

2)日本の基本的立場を維持しながら他国と調整する、真の折衝能力を持つ

3)苛烈な気候、不快な社会条件の国にも家族ともども赴任できる気構えと、そこでの多忙な日々に耐えられる頑健さがある

 

 の3条件が示されている。研修では、外交官に求められる7つの美徳を教え込まれている。外交交渉力のほとんどは道徳的なもので、

 

・常に誠実

・正確な業務遂行

・平静を保つ

・不機嫌にならない

・忍耐を持って対応する

・謙虚(自惚れないこと)

・自国に忠誠を誓う

 

 が必要だとある。筆者は日本外交の現状課題を4点挙げて、それらの解決に尽力できる人材を育てることに注力している。

 

1)米国との同盟強化と安全保障

2)近隣諸国との未来志向の関係強化

3)自由で開放的なルールに基づいた世界経済システム構築

4)自由で開かれたインド太平洋地域の平和・安定・繁栄

 

 国際的な緊張がいや増す中、軍事と外交という「国の専権事項」の重要性が増しています。その最前線である外務省に期待することは多いですよ。「亡国」にならないためにね。