新城彰の本棚

ミステリー好きの自分勝手なコメント

帝国陸軍が遺したもの

 本書は、ミャンマー在住で月刊情報誌「MYANMAR JAPON」を発行しているジャーナリスト永杉豊氏が、クーデター後の同国を2021年にレポートしたもの。この年の2月に、国軍総司令官ミン・アウン・フラインがクーデターを起こし、民主化政権の中心人物を拘束・投獄して実験を握った。

 

 その前の年の総選挙で、民主化勢力が8割以上の議席を獲って圧勝、軍の影響力が損なわれることを嫌っての挙兵だったと思われる。長く軍事政権が続いていた国だが、1988年の民主化運動、2007年の「サフラン革命」と呼ばれた大規模デモなどで軍事政権の足元は揺らいでいた。2011年の総選挙の結果、民主派勢力が勝って、ティン・セイン大統領、アウンサン・スー・チー国家顧問という体制ができた。

 

        

 

 その後日本政府(安倍政権)は、日本企業のミャンマー進出を強力に後押しした。その結果「最後のフロンティア」として経済発展が進み、市民は豊かになっていった。しかし自らの利権(年間予算2,000億円)が侵されるとの危惧をもった軍は、6年かけて政権転覆を狙っていたとある。

 

 「日本には軍との独自のパイプがある」とメディアが伝えていたが、それは帝国陸軍の遺産だと本書にある。スー・チー氏の父親で英国からの独立の立役者アウンサン将軍らを育てたのは、日本軍。軍人としての伝統や文化は、日本軍のものが今でも残っているという。

 

 例えば、軍の行進曲は「軍艦マーチ」そのものだ。日本軍の悪しき伝統も残っているようで、市民を見下す態度や命令絶対服従の考え方は軍に根付いている。加えて、日本政府からは年間1,800億円ほどのODAが流れていて、この相当部分が軍(幹部)に廻っていると言われる。

 

 「命令絶対服従」は、市民への発砲などという形で表れていますね。困った遺産と言えるかもしれません。