新城彰の本棚

ミステリー好きの自分勝手なコメント

時代小説が歪めた(?)歴史

 昨日、歴史小説中村彰彦著「幕末を読み直す」を紹介した。歴史小説と時代小説の比較(線引き?)はとても興味深かったが、タイトルにある「幕末」の扱いが思ったより少なかったので、本棚の奥から本書を引っ張り出してきた。2005年発表の書で、著者は東急エージェンシー会長だった新井喜美夫氏。歴史家というわけでもなく、著書「マーケティング入門」は確かにベストセラーだった。本書は、ある種のメディア論だと思って、最初に読んだ記憶がある。

 

 表紙にある幕末の偉人たち、著者は各人について後世の人は虚像を刷り込まれているという。

 

坂本龍馬

 薩長同盟を成し遂げた志士で、亀山社中という「カンパニ」を作った人。 ⇒ 薩長の貿易で稼ぐのが目的、ボロ船を沈めさせて賠償金をとった当たり屋でもある。幕末の暴走族。

 

勝海舟

 日本海軍の創始者で、江戸城無血開城の立役者。 ⇒ 咸臨丸での米国行は米国人頼み、自らは艦長室を出なかった。出世欲に駆られて幕府を裏切ったのが、無血開城の意味。

 

西郷隆盛

 島津斉彬の側近、大将軍として倒幕を成し遂げ、新政府の重鎮となる。 ⇒ 島津家の特殊部隊指揮官、江戸の争乱を引き起こしたゲリラ活動を主導。

 

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松平容保

 斜陽の幕府に入れ込んで、会津藩の悲劇を生んだ暗君。 ⇒ 御三家が離れる中、最後まで幕府を支えた「ラストサムライ」。領内でも善政を布いていた。

 

小栗上野介

 明治になり、徳川埋蔵金を隠していたとか大砲などを持ち出して争乱を画したとして死刑になる。 ⇒ それらは全て冤罪。米国訪問時先方が驚く才覚を発揮、「カンパニ」を最初に作り、海軍整備の道も拓いた。

 

徳川慶喜

 大政奉還をし、日本の戦乱を収めた名君。 ⇒ 鳥羽伏見の戦いなどで卑怯未練の振る舞いあり、明治になっても贅沢を続けた最悪の為政者。

 

 慶喜の項では、渋沢栄一が「徳川慶喜公伝」を著わして実態を隠したと筆者は言う。司馬遼太郎の「竜馬がいく」も、現実を歪めたと時代小説だった。確かに幕末はNHK大河ドラマに再三取り上げられ、主人公を貶めないように工夫をされて視聴者の前に提示されたことは確かである。

 

 しかし「歴史小説」のレベルだと、大衆には分かりにくいし面白くない。だから「時代小説」を脚本化するというのも分かる気がしますよね。たまにはこういう本を読んで「時代リテラシー」を養うのもいいでしょう。