新城彰の本棚

ミステリー好きの自分勝手なコメント

医師が勧める「死に方」

 本書の著者中村仁一氏は、特別養護老人ホームの「配置医師」である。この見慣れない肩書は、行政用語で老人ホームに常勤する医師の事らしい。筆者は本書執筆の時点(2011年)で、すでに12年も社会福祉法人「同和園」でこの職にある。医師の世界には本来ランキングはないのだが、大学病院の教授を筆頭に大病院・中小病院・診療所といったヒエラルキーがあって、老人ホームの配置医師などは底辺なのだそうだ。このため後任がなかなか見つからず、12年も経ってしまったと本書にある。

 

 ただそのおかげで普通の医師では得られない体験もしたとあって、それは「自然死」を数百例も見れたということ。その経験から医療と死の関係について啓示を受け、それをまとめたのが本書だとある。その内容は、我々が持つ常識を全部ひっくり返すようなものだった。筆者の言う「医療の鉄則」とは、

 

・死に行く自然の過程を邪魔しない。

・死に行く人間に無用の苦痛を与えない。

 

 ことである。生物には自然治癒力があって、病気やケガを直すことができる。だから医師の治療に求められるのは、

 

・自然治癒を妨げない。

・自然治癒を妨げているものを除く。

自然治癒力が不足していれば向上させる。

自然治癒力が過剰であれば、適切に弱める。

 

 の4点でいいという。

 

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 生物としては、繁殖期が終わればあとは死を迎えるのが普通のこと。体も使っていれば古くなって不具合が出るのは当たり前、やがて飲み食いできなくなってもうろうとして死を迎える。死にそうだから飲み食いができないのではなく、飲み食いできなくなったから死ぬのだ。だから鼻からチューブを入れて栄養補給をしたり、特に胃ろうなどという手段を採ってはいけないと筆者は言う。

 

 がんは苦痛を伴うと言うが、実は手術や投薬など治療の名目で行われる措置が痛みを引き起こす。「できるだけの治療をします」という医師の言葉は「できるだけ苦しめてあげます」という意味だと本書にある。なるほど、それなら自然死もいいなと僕も思った。

 

 本書は本棚に残しておいて死が見えてきたら再読することにしたのだが、時節柄気になる記述がひとつ。インフルエンザワクチンの話で、日本で2010年にインフルエンザで死亡した人は204人に対し、ワクチン接種後に死んだ人は133人だったということ。接種した人約2,300万人に対して0.0006%だが死者が出ているのだ。ちょうど「COVID-19」ワクチンを打つか打たないか迷っている僕には、気になる話でした。