新城彰の本棚

ミステリー好きの自分勝手なコメント

「絶望社会」先進国の肖像

 前の文政権が検察力を弱めようとして警察に肩入れし、今の尹政権が検察復権を目指して警察をスポイルした。その結果、梨泰院の事件がより多くの犠牲者を出したという。死者のほとんどは若者、特に女性が多かった。

 

 2020年発表の本書は、在日三世のライター安宿録氏の韓国若者事情レポートである。

 

・若者の失業率は、20年にわたり8%以上

・大卒就職率は、8年連続で60%台

・特殊出生率は、ついに0.94まで下落

 

 日本の「若肉老食政策」よりも過酷な現実が、彼らの上にのしかかっている。大学進学率が8割を越えていても、ごく一部の優等大学を除いてはまともな就職先がない。卒業後3~10年も資格を取る学校に行ったり兵役もあるので、稼げるようになるのはアラサーのころ。それでいて大企業に入れても、40歳過ぎには「定年」がやってくる。ましてや高卒では「勉強が出来ず大学に行けなかった者」とのレッテルを張られて、世間から見えない存在にされてしまう。

 

        

 

 現在でも<両班>が形を変えて残っているようで、ひとにぎりの特権階級が全てを握っている印象だ。また男尊女卑もひどく、LGBTなどへの風当たりも強い。映画「パラサイト~半地下の家族」やTVドラマ「梨泰院クラス」が描くのは、ごく普通の都会の風情だという。では地方はというと、100年前と変わらぬところもあり、若者は住みづらい。

 

 多くの若者は、都会でも地方でも、諦観していると筆者は言う。一部の能力のある若者は海外への進出を考える。本書の中には、日本に就職先を求めた韓国人のインタビューもあり、日本企業はよりフレンドリーだという就職理由を掲載している。

 

 格差社会が問題になる日本だが、本書の記述を見る限り韓国の絶望感はケタが違う。かつてはかの国に旅行などで行っていた僕から見れば、残念な現状。日本がそれに追随しないことを祈るだけです。