新城彰の本棚

ミステリー好きの自分勝手なコメント

市民運動出身の首長

 20世紀の終わりごろ、TVで政治討論番組をよく見ていた僕には、自分からは遠い政党でありながら気になる政治家が2人いた。一人は先週「東電福島原発事故、総理大臣として考えたこと」を紹介した、当時社民連菅直人議員。もう一人が社民党保坂展人議員。どちらも市民運動の出身で、主張はシャープに伝わってきた。

 

 保坂議員は2009年の自民党が下野する総選挙で落選、国会を去ることになる。しかし外側から民主党社民党の連立政権の失敗を見て、世田谷区長に転身する。きっかけは東日本大震災福島原発事故当時、杉並区長の南相馬市支援を手伝ったことだという。筆者の国会議員としての出発点は、自社さ政権。1年だけ与党を経験しその後野党の立場で国政を見たことが、バランスのいい政治感覚を身に付けられた理由だった。

 

        

 

 2021年発表の本書は、12年間90万人以上の自治体を治めた筆者が、政治学中島岳志氏のインタビューに答える形で「政権の選択肢」を示したもの。「COVID-19」対策でも世田谷モデルを確立した行政手腕の持ち主で、いくつか示唆に富む発言がある。

 

 米国での意見形成は、地域にある無数のアソシエーションで成される。移民の多い国なので、この方法でしか合意ができない。合意があれば政治家が大したことなくても、政治は前に進む。日本には町内会しかない状況なので、政治家はアソシエーションづくりをすべき。

 

 合意形成には時間がかかる。下北沢の再開発は意見対立を収めるのに熟議デモクラシーが重要だった。昨今の政治は「スピード感」が重視されるが、それでは誰かを取り残す強権政治になりかねない。個別案件だけでなく政策そのものも、毎年5%変えるペースでいいという。

 

 首長のリーダーシップとは、即断即決で物事を決めるのではなく、熟議を待つ忍耐力のことだとある。「政権交代ではなく政権運営の質の転換を目指すべき」というのは、いい指摘でしたね。