新城彰の本棚

ミステリー好きの自分勝手なコメント

現代に生きるTOPのための戦争学

 「本所松坂町、吉良邸に響く山鹿流の陣太鼓・・・」は忠臣蔵のクライマックスで流れる弁士の台詞。ここに出てくる「山鹿流兵法」を現代風の戦争学入門編として解説したのが本書(2003年発表)である。著者の武田鏡村氏は日本歴史宗教研究所所長で、他に「黒衣の参謀列伝」などの歴史解説書がある。

 

 山鹿素行は江戸時代初期の軍学者、徳川政権に嫌われて流罪になったこともあるが、播州赤穂浅野家に庇護されて兵法を指導し、著書も遺した。彼が生きた時代には、まだ戦国時代の生き残りの人もいたし、生々しい記録も残っていた。これを学び「孫子の兵法」をベースとして、「山鹿流」を確立している。

 

・勝つための戦法

・勝利への戦略

・攻撃と防御の重要ポイント

・指揮を執る基本原則

・情報の掌握で決する勝敗

 

 の5章建てとなっている本書には、戦いに臨む戦術というよりは謀略・兵站・指揮統制・インテリジェンスに関する記述が多い。人を見る技術も必要だとあって、毛利の使者安国寺恵瓊が日の出の勢いの織田家を訪ねたおりに、

 

 「信長は頂点を極めるが、10年以内に予想もしない死に方をする。配下の秀吉はなかなかの人物」

 

 との評を主君に送っていたエピソードが伝えられている。

 

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 この2人に家康を加えた本書の評価は、

 

織田信長

 ブレーンを用いず独断専行、秘書役(森蘭丸ら)は用いた。

 

豊臣秀吉

 竹中半兵衛黒田官兵衛らブレーンを用いていた時代は良かったが、彼らを失い石田三成ら秘書役を重用するようになって勢いを失った。

 

徳川家康

 本田正信、天海、果てはヤン・ヨーステンなど多彩なブレーンを活用。側近政治を打破するべく秘書役は置かなかった。

 

 としている。またインテリジェンスについても1章を設け、その冒頭に、

 

 「百金を愛(おし)みて、敵の情を知らざる者は、不仁の至りなり」

 

 との孫子の言葉を引用し、平時から情報収集にカネを惜しんではいけないと説いている。情報を得るための「間」には5種類あるといい、

 

1)因間:敵国民からの日常情報

2)内間:敵の要人を買収するなどして得る情報

3)反間:敵のスパイを寝返らせて得る情報

4)死間:敵国内で流すニセ情報

5)生間:敵の機密を探り(生きて)帰ることで得る情報

 

 を良くする者が勝つとある。このあたり、国家安全保障から企業のサイバーセキュリティ対策まで、すべてに応用できる話だと思いました。