新城彰の本棚

ミステリー好きの自分勝手なコメント

最悪のシナリオの教本(後編)

 上巻は、田所教授の地球物理学的仮説や、小野寺が操縦する深海調査船の活躍が中心だったが、下巻になると主役は日本政府に移る。最後まで名前の出てこない総理、官房長官防衛大臣らが、田所教授らの調査結果を受けて展開する極秘の「避難計画」である。また、野人である田所教授の人となりを確認して、総理に(なみいる御用学者をさておき)教授を重用するよう勧める、渡老人が怪しげだ。

 

 初期の調査に、老人は私財を売って教授の調査をサポートした。100歳を越えるというこの男、現総理が総理になれるよう後押ししたキングメーカーでもあるようだ。地震や噴火は全国に広がり、小野寺の婚約者玲子も富士山の爆発に巻き込まれて、行方不明になってしまう。

 

        

 

 日本人の海外避難に道を付けるため、総理は内閣を改造、外務・防衛・通産などに実力者を配した。日本の災害状況を、ある意味冷ややかに見ていた米国政府は「内政が重要なはずなのに、なぜ対外部門を強化する」といぶかしむ。

 

 米国だけではなく内外のメディアも、日本政府の海外資産逃避などの事実を掴み、極秘のD-1計画の情報は漏れ始める。ここに至り総理は国会で「日本沈没」の危機を明らかにし、市民と外国政府に協力を求めた。

 

 しかし1億人を超える人口を1国が引き受けられるはずもなく、それほどの人数を運べる航空機や船舶の手配もままならない。オーストラリア政府は日本政府の要求する受け入れ人数を見て「オーストラリア住民の1/3が日本人になってしまう!」と驚愕する。日本政府は「だれ一人取り残さない避難」を掲げるが、激化する災害で犠牲者は増え続ける。

 

 本書が1974年に発表されてから、阪神淡路大震災があり、東日本大震災がありました。大量の避難民という意味では、シリアやウクライナの例があります。50年前に出版されたこの予言書、非常に先見性の高いリアルなものでした。