新城彰の本棚

ミステリー好きの自分勝手なコメント

5G、それで何ができるのか?

 2020年発表の本書は、東京大学大学院教授(電子工学)森川博之氏の「5G論」。僕より1世代若いデジタル研究者で、政府関係の会合等で何度かお会いしたこともある。技術者だがビジネス感覚もお持ちで、この技術をどう高めるかよりどう使って社会に適用するかを考える人。「Data Driven Economy」を早くから提唱している点で、いい議論ができる研究者である。

 

 別ブログで何度も強調しているように「5Gをどう開発するかより、何に使えるか、使って社会が良くなるか、事業者が儲かるか」が普及のカギである。本書は、その問いにある程度答えてくれる。結論から言うと、筆者の勧める5Gのキラーアプリは「自動運転」である。

 

 自動運転は自律型と遠隔型があり、前者は広域5Gでなくてもある程度は可能だ。しかし(高速・大容量・低遅延の)路車間通信を必要とする後者では、広域5Gでないと安全確保が難しい。

 

        

 

 その他のアプリケーションとしては、

 

・建設等作業現場の無人

・スマート工場(Industry4.0)

・データ駆動型医療、ヘルスケア

・モバイルヘルス、プロアクティブ型医療

・AR/VRを用いたトレーニン

 

 などが挙げられている。ただ、これらにはローカル5Gで実現できるものも多い。筆者らしい(僕らにはない)指摘として「5Gでゲーム産業が高度化する」というものがある。オンデマンド/クラウド型ゲームの進歩が著しく、

 

・市場規模が1,800億ドル(2021年予測)にもなる

・高精細画像、多人数同時プレイ、リアルタイム性など要件が厳しい

 

 ために、事業者の投資意欲が高い。また現実に回収が容易である。教育機関のAR/VRシステムに似ていても、規模は桁違い、ビジネスチャンスも大きい。

 

 これまでの「5Gならではキラーアプリ論」を上手く整理した書でした。筆者とは、また議論させていただきたいです。