新城彰の本棚

ミステリー好きの自分勝手なコメント

ネット上はれっきとした現実

 この言葉は「秋葉原通り魔事件」で昨年死刑執行された加藤智大死刑囚が、筆者に語ったもの。インターネットの爆発的な普及と、平成時代は重なる部分が多い。2019年発表の本書は、ジャーナリスト渋井哲也氏が多くの犯罪者や被害者にインタビューしてまとめたもの。

 

 冒頭、2017年に発生した座間市のアパートで男女9名が死体となって発見された事件の白石被告人にインタビューするシーンがある。中学生の時にケータイでWebを始めてから、Twitterをはじめとするツールを使いこなしていったという。ネットナンパなどをしたが、恋愛はしていない。逮捕時は風俗スカウトをしていて、使っていたのはSNS。理由は反応が良くて早いから。筆者は他にも、

 

        

 

・京都メル友殺人事件(2001年)

・監禁王子事件(2004年)

佐世保小6同級生殺害事件(同)

・出会い系サイト依頼殺人(2005年)

 

 などを列挙し、孤独の中でWeb上での(匿名の)つながりや、犯罪情報に触れることで犯行が容易になっていく状況を説明する。加害者の傾向として、

 

・対人的なものが苦手

・物事を断片的に捉える

・抽象的なものを言葉にしづらい

・聴覚的より視覚的情報が処理しやすい

 

 があるというが、被害者にも同様の傾向があるように思う。面と向かって異性と語り合ったり愛せない若者が増えてきて、Web上のさまざまな「機会」が彼らを暴走させることになる。自殺や殺人に関する情報サイトもあるし、心中仲間を集めるサイトもある。

 

 事件の背景には生活苦などはあるのだが、人生を切り開く努力ではなく安易な何かに依ってしまう傾向もみられる。それを助長するのが、匿名で非対面のコミュニケーションを可能としたSNSなどである。そして「秋葉原通り魔事件」のように、Web上の予告までが成されるようになった。

 

 筆者のテーマは「Webといきづらさ」だとあります。でも問題がより大きいのは「いきづらさ」の方ですよね。Webは手段ですから。