新城彰の本棚

ミステリー好きの自分勝手なコメント

「北斗星1号」に乗った美保

 1993年発表の本書は、津村秀介の「伸介&美保」シリーズの1冊。表紙に函館山から市内を見下ろした写真が使われているように、事件の主要な舞台になるのは上野発札幌行きの寝台特急北斗星1号」と、列車が朝の0424に到着する函館である。

 

 「週刊広場」のアルバイト美保は、大学の同級生かずみに頼まれて「北斗星1号」に乗った。かずみは横浜の小さな会社の社長令嬢で、父親の秘書格の青年高島と婚約していた。高島とは彼の故郷である函館に婚前旅行をする予定だったのだが、旅行の数日前に「僕のことは忘れてくれ」と言い残して一人函館に行き、その後の行方が分からなくなってしまったという。

 

 旅行用の切符で彼の故郷に行ってみたいというかずみは、週刊誌でバイトしている美保についてきてくれと頼んだのだ。まだ暗い函館に着いた2人は、手分けして高島を探すことに。高島がメモに残した場所を美保は写真を撮って廻る。このルートが函館好きの僕には、ひどく懐かしい。

 

        

 

 結局2人共手掛かりは得られなかったのだが、なんと高島が福岡で死んでいたことが分かる。しかも父親の愛人と思しき女が、福島で殺されていてその現場に高島の指紋や体液が残っていたという。失踪、不審死、殺人の3つの事件について、最初からインサイダーだった「週刊広場」と「毎朝日報」は、各地の警察に先駆けて手掛かりをつかむ。

 

 函館での失踪、福島での殺人、福岡での飛び降りという高島の行動は、物理的には可能だが、意味が分からない。次第に事件の背景は明らかになってくるのだが、高島には福島の殺人はできないアリバイがあった。

 

 本書はシリーズの中でも屈指の傑作。アリバイ崩しそのものはほぼ出来た(1992年の時刻表がないのでほぼ止まり)のですが、犯人側の仕掛けは秀逸でしたね。素人が事件に関わる難しさを何度か説いていますが、本書はその不自然さもうまく収めていました。