新城彰の本棚

ミステリー好きの自分勝手なコメント

帝国管区ウクライナの闘い

 2014年発表の本書は、寡作家スティーヴン・ハンターの「スワガーもの」。伝説のスナイパーで<ボブ・ザ・ネイラー(釘付けボブ)>とあだ名されるボブ・リー・スワガーも68歳になった。日向ぼっこをしながら孫と遊ぶ日々だが、スナイパーに係る謎を与えられると、血がたぎる。

 

 彼のもとに在モスクワ記者のキャシーから、第二次世界大戦赤軍のスナイパーとして数百人のドイツ兵を撃ったという女ミリの記録を探したいので協力してくれとの依頼が入る。人形のように可愛いが正確な狙撃で「白い魔女」と呼ばれた彼女は、1944年に突然消息を絶っていた。

 

 作者の得意技は、現在のボブらの歴史探求で疑問とされたことを、次の章で過去に戻り解き明かすこと。本書もその繰り返しで、現在のボブとキャシー、1944年のミリとその関係者(敵兵含む)の行動が綴られていく。

 

        

 

 兵器に詳しい作者だけに、独ソ両軍の兵器が詳述される。空挺隊員用の自動小銃FG42は、ソ連の小銃より100年進んでいるという。しかしミリは1891年制式のモシン・ナガンに3倍スコープを付けてドイツ軍に立ち向かう。ミリの回想シーンに出てくるプロポロフカ戦車戦の、パンテル&ティーゲル対T34の闘いがリアルだ。

 

 ミリに与えられたのは北部ウクライナカルパチア山脈中で、SSの重要人物グレドゥル博士を射殺する任務。しかしともに行動したパルチザン部隊は、ドイツのムスリム部隊の奇襲に遭って全滅してしまう。ドイツ軍はパルチザンを「山賊」と呼び、捕虜は拷問の末処刑していた。パルチザン側もドイツ兵を捕虜にはしなかった。

 

 一人目標に迫る彼女を待つのは、精鋭降下猟兵フォン・ドゥレール少佐の分隊だ。ウクライナの地は1941年にドイツに占領されて「帝国管区」となった。赤軍が巻き返した1944年の祖国解放戦争を背景に、美しい魔女の闘いとそれを調査するボブの活躍がスピーディに展開する。登場する兵士たちも、全てが魅力的だ。

 

 作者の軍事スリラーは、実に面白いです。今回も、700ページがあっという間でした。