新城彰の本棚

ミステリー好きの自分勝手なコメント

サラリーマン心理学の好著

 2019年発表の本書は、「いらない課長、すごい課長」や「いらない部下、かわいい部下」などを著わした新井健一氏の手になるもの。筆者は経営人事コンサルタントだが、大手重電メーカーを振り出しに外資を含む企業を見てきた人。冒頭「働かないのにはスキルと覚悟が必要だ」とあるが、そこから想定される「サラリーマンは気楽な稼業として生きる」ための、浮ついた指南書ではなかった。

 

 まだ「COVID-19」騒ぎになっていない時代にかかれたものだが、「働き方改革」の波は確実に迫っていて、同時に社会全体が予測不能な状態にあると筆者は指摘する。その要因はVUCAにあるが、

 

・Ambiguity

・Complexity

・Uncertainty

・Volatility

 

 の頭文字をとったものらしい。筆者はこんな時代を生き抜くために、日本企業を実は担っている「課長職」に焦点を当て、どう生きるべきかの「サラリーマン心理学講座」を本書で展開する。

 

 本書は、無駄な会議、無責任な上がり社員の発言、だらだら続く残業、「お先に」と言えない雰囲気など、日本の企業によくあるシーンを並べて「メンバーシップ型雇用」を脱却できない理由につなげている。

 

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 企業としての効率重視で「メンバーシップ型雇用」に切り替えるなら、極論として全員派遣社員にしてもいいのではとある。現実に正社員の不足を訴える企業は53%に上り、その補充を派遣等非正規社員で賄っているのだから。急に「メンバーシップ型雇用」に切り替えられないのなら、まず人材を、

 

・役割型人材 ポストの役割をこなしてもらう、いわばジェネラリスト

・職務型人材 その人ならではのミッションを担うスペシャリスト

 

 にわけて、育成計画の分けるべきだとある。働きすぎのミドルにどうやってワークライフバランスを取らせるか、地味な仕事を嫌う若手にどうやる気を持たせるかなど実践的な指導例とともに、やる気と能力がありすぎて組織全体に害をなすタイプの管理者を見分ける方法も書いてある。

 

 企業の中でどう生きるかの「サラリーマン論理学講座」はよくあります。しかし本書のように心理学的な考察を加え、最後に「企業人の徳とは」との問題を投げかけた書を、僕は他に知らりません。その意味で好著だと思いました。