新城彰の本棚

ミステリー好きの自分勝手なコメント

2,300万人社会のDX理念

 米中対立の焦点である台湾(中華民国)は、デジタリゼーションの意味で米中の良いとこどりをしたような国との印象がある。技術力が高いのはもちろん、中国ほど強権的でなく、米国ほど自由放任でなく、中庸をいくデジタル政策が進行中だ。

 

 2022年発表の本書は、ジャーナリスト大野和基氏が世界の知性にインタビューした1冊。今回は台湾のデジタル担当相オードリー・タン氏である。初等中等教育期をドイツで過ごしたというタン氏は、民主主義・政治に興味を持っていたが、職業としては得意なデジタル産業を選んだ。30歳を越えて、Appleを辞め政治の世界に入ってきた。

 

        

 

 面白かったのは、数々の社会DXを成し遂げた彼だが、議員などを選ぶ政治選挙には電子投票はまだ使えないと言っていること。紙ベースの投票ではあるが、すでに台湾社会はデジタル技術の正確性や正当性を認識し透明性を得ているが、電子投票を導入すれば効率は上がるものの(暗号技術の認識が不十分なので)透明性を失いかねないからだという。

 

 台湾社会がデジタルの正当性を認識したのは、市民参加のプロジェクトが成功したからだとある。例えば、

 

◆JOIN 選挙権のない若者でも政策提案をできるプラットフォーム。一定期間内に5,000人以上の賛同が得られると、行政府はその実施検討をし、結果を示さなくてはならない。その過程は、全て透明化(Web上で公表)している。

 

◆クアドラティック・ボーディング 総統杯と呼ばれるハッカソンの評価は、一人99ポイントを持って多くの人が多数の候補に投票する。1ポイントなら1票だが、2票=4ポイント、3票=9ポイントとコストがべき乗で増えていく。余剰のポイントをどこに回すかによって、ロングテールのニーズを発掘できる。

 

 2,300万人の島台湾で起きているデジタル民主主義の考え方、加えて若者教育の在り方(*1)が、とても参考になりました。

 

*1:教師は正しく教えるのではなく、答えのない問題に一緒に取り組む共同探索者