新城彰の本棚

ミステリー好きの自分勝手なコメント

プロットそのものがトリック

 本書は、多作家西村京太郎の1971年の作品。まだレギュラー探偵十津川警部らが登場する以前の作品だが、このころの著作には力作が目立つ。本書はある意味、パズラーの極限を目指したもので、プロットそのものがトリックのようなミステリーだ。「プロトリック」と言うべき作品は、例えば女王クリスティの「アクロイド殺害事件」や「そして誰もいなくなった」があるが、本書は「そして誰も・・・」に挑戦するような作品でもある。

 

 冒頭「ノックスの十戒」にある、双生児の入れ替わりへの留意事項を護るとして「本書は一卵性双生児の入れ替わりを使っている」と宣言してある。しかし、これも二重のトリックの入り口だった。

 

 まず25歳の小柴兄弟が世間に復讐するとして、2人のどちらが犯行を行ったかが分からない連続強盗を始める。指紋は残さないが顔をさらしての犯行なので、容疑者はすぐ絞られた。しかし兄弟のどちらが犯人かの決め手がなく、捜査陣は逮捕に踏み切れない。監視・尾行をするしかないのだが、兄弟の奸計にはまって捜査陣は翻弄される。

 

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 一方、年末年始を東北の山荘で過ごしませんかという案内が、若い東京の男女に届く。ふもとの町まで雪上車で2時間かかるという山荘だが、往復の切符が同封され、宿泊料・飲食代の無料だという。集まってきたのは、

 

・サラリーマンの矢部と森口

・森口の婚約者でOLの京子

トルコ嬢の亜矢子

・タクシー運転手の田島

・犯罪学専攻の学生五十嵐

 

 ホテルのオーナー早川を含めた7人が山荘で過ごすことになったのだが、到着早々矢部が自室で首つり死体となる。町の警察へ連絡しようとしたが、電話は不通、雪上車も壊されてしまった。山荘に閉じ込められた6人に、連続殺人鬼の魔手が迫る。この2つの事件が、全体の2/3を過ぎたあたりで急に結びつく。そこからは犯人の仕掛けたトリックの罠を、捜査陣が苦しみながら乗り越えていく話になる。

 

 実に手の込んだパズラーなのだが、解説はその点を評価せず、終盤謎解きの課程で社会課題(都会の無関心・タクシーの乗車拒否など)を取り上げた作者の「温かい目」を挙げている。どうも僕の読み方とは違う解説者のようだ。

 

 確かに乱歩賞作品「天使の傷痕」で薬害問題を取り上げる作者だが、まだこのころはミステリーのいろいろなパターンを試していた。本書はパズラーとして、第一級の作品だと思いますよ。