今日10/9は「世界郵便の日」である。本書(1991年発表)は歴史・軍事作家柘植久慶が、その「郵便愛」を存分に綴ったもの。取材で世界を巡る作者は、ロンドンの切手商で義和団事変に出征したドイツ兵が故郷に送った手紙を見つけた。それ以降多くの軍事郵便をコレクションにしていて、本書でそれらを紹介するとともに、その背景たる戦争や時代を描いた。
近代の軍隊は、遠征や駐屯を行う。従軍する将兵に、故郷との連絡を優遇して与えるのは士気の上からも重要だった。そのため低い負担で国際郵便が交わされることになる。ナポレオン戦争以前も軍事郵便はあったが、あまり見つからない。しかしナポレオンが下士官には読み書きができることを条件にして、かつ各地に遠征をしたので現存する軍事郵便が増えた。
日本では軍の近代化を進めた明治政府が、軍事通信として電信と共に軍事郵便を制度化し、西南戦争で最初に使用した。日清戦争では、下士官までが無料で郵便を利用できるようになっている。日露戦争には、多くの欧米の軍人が観戦武官としてやってきた。ドイツのホフマン大尉(後の中将)が直筆した手紙を入手したことについて、作者は「二重三重の喜び」だと語っている。
第一次世界大戦までは、軍事郵便は鉄道もしくは船舶で輸送されていたが、戦間期にフランスでは、特にインドシナとの連絡に航空便を使った。このころの版図を見ると、フランスは英国に劣らない植民地を持っていたことが分かる。軍事航空便制度を大規模に確立したのは、日本軍が最初。1937年の日中戦争開始以降、インドシナ進駐から太平洋戦争開戦後も、拡大する戦線を支えるために必要だった。
切手にも特徴があり、元首の顔を刷ったものは当然あるが、敵国の元首が泣きっ面という切手(ドイツSS用)というものもあった。紙質などでその国の困窮度も計れる。1940年ころの英国は孤立していて、軍事郵便の封筒を3度使ったものがあった。1962年の中ソ紛争の時の中共軍の紙質は最悪、毛沢東政権の混乱期だった。
面白いコレクションでしたね。2世紀分の歴史が詰まっていました。