新城彰の本棚

ミステリー好きの自分勝手なコメント

デジタル社会の行きつく先?

 2022年発表の本書は、フリージャーナリスト金敬哲氏の韓国ネット社会の現状レポート。韓国は間違いなくデジタル先進国で、電子政府の充実度などは日本の20年先を行っている。金大中時代に始まったIT先進国を目指したインフラ建設は、IMF管理になった暗黒時代もなんとか続けられ、21世紀になって大きな成果を得た。

 

 今や国内の大企業(TOP30社)の6割以上がIT産業で、特にサービス産業が充実している。

 

検索エンジンのネイバー

・ネット銀行のカカオバンク

・韓国版アマゾンのクーパン 等々

 

 の登場で、市民はスマホひとつで生活できるようになっている。すでに紙新聞を読む人は13%まで減り、ほとんどの人はネットメディアから情報を得る。ある統計では韓国人は40%の時間をネットに費やしているという。

 

        

 

 行政を含むあらゆるサービスがネットアプリ化され、有人窓口は特別な富裕層などの対応に特化(*1)してしまった。デジタル機器に不慣れな人たちは、列車の切符や外食の食券を買うのにも困っている。ある老人は「若いころは言葉も通じない国で、結構遊び回った。今は生まれ育った国で、外出するのが怖い」と嘆く。

 

 スキルがあってもお金がないと、やはり困る。富裕層は上記のように有人窓口に行けるのだが、PCやスマホを持てないと義務教育すら受けられない。データ無制限の契約料が払えないと、無料WiFiを捜し歩くことになる。

 

 選挙自身はデジタル投票ではないが、選挙運動はネットメディアに大きく左右される。YouTubeチャンネルが乱立し、フェイクもどきのニュースを流すので、世論が大きく揺れる。市民は分断され、政権が不安定になるゆえんである。SNSを巧みに操るものが政権を担う傾向も顕著だ。大きな国家ビジョンより、当面する問題を解決するという主張が目立ちやすく、前の大統領選挙で「脱毛美容政策」が取り上げられた理由が良く分かった。

 

 デジタル先進国として、他山の石と考えるべき材料を多くくれた書でした。

 

*1:少子化による人手不足が一因