新城彰の本棚

ミステリー好きの自分勝手なコメント

カウンターテロリズムの研究

 2022年発表の本書は、日大危機管理学部福田充教授のカウンターテロリズム研究。オウムの地下鉄サリン事件を契機に、危機管理の研究を始めた筆者が、安倍元総理暗殺事件を契機に、現代テロの特徴と対処法を示した内容になっている。

 

 蘇我入鹿暗殺、本能寺の変、5・15事件、浅沼稲次郎暗殺事件等々、安全な国と言われる日本でも、政治がらみのテロは少なくない。安倍元総理が、安全保障法制や情報共有システムの構築など、日本の安全保障に寄与した政治家だったが、自らは旧統一教会問題に絡んだローンウルフ型のテロで命を落とした。

 

 その結果旧統一教会問題にスポットライトがあたり、山上容疑者のテロリストとしての2つの目的(暗殺とメディアへの提起)は果たせた。「メディアはテロへ酸素を送る機関」ともされるが、真相報道を追求すればその傾向が出るのはやむを得ないし、追求しないことは民主主義の危機だとある。

 

        

 

 安倍元総理の警護が十分でなかったことは、米国シークレットサービスと日本のSPの機能の差だけではなく、日本社会のテロ対策全体に甘さがあるとの指摘だ。昨今のテロリストは、

 

・ホームグロウン

・ローンウルフ型

・ネットワーク型

 

 があるという。山上容疑者は前2者の特徴を持つが、ネットワーク型というのはテロ組織同士の連携だけでなく、SNS等を使った宣伝術も巧みだということ。危機管理の要件として、

 

・Intelligence

・Logistics

・Risk Communication

・Security(事前にRisk Management 事後にCrisis Management)

 

 の4要素が挙げられている。9・11テロを受けて米国では、大統領直下の国家安全保障会議NSC)のもと、各機関が情報共有、機能連携できる体制を作り上げた。国土安全保障省(DHS)では、17項目の重要社会インフラ(*1)を指定し、テロ対策を進めている。

 

 引用されていた組織図が2007年のもので、サイバー攻撃などに対処するCISAは存在していませんでした。ただ、サイバーテロも含めて、いかに対応するかを勉強させてくれた書ではあります。

 

*1:農業と食糧、防衛産業基盤、エネルギー、公衆衛生と医療、国定記念物と建築物、銀行と金融、飲料水と水処理システム、化学施設、商業施設、ダム、緊急機関、商用核施設、情報技術、情報通信、郵便と郵船、運輸システム、政府施設